読んだ

文字百景マラソン002 やげん彫り

文字百景002号は、001号でウィーンを訪ねた戸狩淳二氏が、今度は白川で石のエリクチュール*1をたどる。彼の心をとらえたのは、白川城の搦め手(裏門)に刻まれた「感忠銘」という巨大な石碑だった。その特徴は“やげん彫り”で文字が刻まれていること。やげん…

文字百景マラソン001 石のエリクチュールをたずねて

文字百景001号は戸狩淳二「石のエリクチュールをたずねて」。“エリクチュール”とは「筆跡・表現法」のこと。戸狩氏が石に刻まれた文字に興味をもつきっかけとなった、建築家アドルフ・ロース(1870-1933)の墓標との出会いをみずみずしく記している。読み進…

道を切り開きたいのであれば、ぶつかるところまで行くほかない

夏目漱石『私の個人主義』を読んだ。この本には漱石の講演がいくつか所収されているが、表題の「私の個人主義」を読んで唸る。記録を見れば大正3(1914)年11月の講演だから、実に90年以上前に話された内容だというのに、いまなおこれだけ示唆に富んでいると…

佐藤修悦『ガムテープで文字を書こう』

駅の工事現場から生まれた文字 佐藤修悦さんが本を出されたと知り、早速手に入れた。本のタイトルは、『ガムテープで文字を書こう』。「修悦体」で組まれたタイトル文字を表紙に見て、思わず顔がほころぶ。ガムテープで文字を書こう! ―話題の新書体「修悦体…

西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』

お金の話をすることは、はしたないと言われる。確かに「お金がすべて」ではない。けれども、だれしも生きていかなければならない。生きるとは、生活すること。そして生活するにはお金が必要だ。だから、お金について考えるのは、とても大事なことなのだ。西…

たからもの

すっかり更新できない日々が続いています。 いや、更新できないのではない。その時間すら取れないというわけではない。ただ、書けないのです。余裕のないということは、心や生活を荒ませます。よくない兆候です。* * * *幸田文の『雀の手帖』というエッ…

永遠のアマチュア

もうひとつ、五十嵐威暢氏の本から。 僕が尊敬するデザイナーの名前を挙げてみよう。ハーバート・バイヤー、マックス・ビル、マッシモ・ヴィネリ、エンゾ・マリ、イサム・ノグチ。この他にもいるけれどこのくらいにして、彫刻家のイサム・ノグチが入っている…

「デザインすることは生きることと同じだと思う」

五十嵐威暢氏の本を読んでいたら、こんな言葉があった。 ちょっとキザな言い方かもしれないが、デザインすることは生きることと同じだと思う。人はどうやって自分らしく生きるかについて悩んでいる。デザイナーとしてなら、自分らしく何を表現するのかという…

湯本香樹実の本

はずかしながら読書量があまり多くないわたしだが、好きな作家は何人かいる。そのうちのひとりが湯本香樹実さん。ゆえあって前に別の場所に書いた感想を引っ張りだしてみる。そういえば、酒井駒子さんとの絵本『くまとやまねこ』をまだ読んでいない。湯本香…

すべての創造の源は

先日、粟津潔展を観に行ってから、会場に散りばめられた粟津氏の言葉に惹きつけられ、その著作を読みたいと強く思うようになった。そこで最初に手に取ったのが『粟津潔 デザインする言葉』。この本は、彼が1960年代から今日に至るまでさまざまな書籍で考察し…

わたしたちは良いものを残さねばならない。

職人が代々受け継いできた技は、言葉や数値で表せるものではないといいます。これまで何人かの職人を取材してきましたが、みなさん口をそろえていうのは「こうしなさい、こうするといいと教わったことは一度もない」ということでした。しかしそれは決して意…

『すぐに稼げる文章術』日垣隆

『すぐに稼げる文章術』とはまた、なんともえげつないタイトルである*1。「これ読んだよ」と言うのがためらわれるくらいに。けれど、ちょっと待てよ。「すぐに稼げる」というと、片手間にちょちょいっと文章を書いて簡単にお金が稼げますよ〜というアヤしい…

あたし彼女 読んだ みたいな/けっこう面白い みたいな/てか/このタイトル 何人目だっつーの!

第10回日本ケータイ小説大賞の大賞受賞作品「あたし彼女」が話題沸騰ですね。この文体を真似たタイトル/エントリー/コメントが、受賞発表後に一体いくつ書かれたんだろう? ご多分に漏れず、わたしも書いてみたわけですが。これまでケータイ小説ってまった…

書物は「連続と切断」からできている。

前のエントリーで、ケータイ小説「あたし彼女」のことを「ページネーションの感覚において、ウェブ上の小説より書籍に近い感覚で作られているかも」と書きました。なぜ「書籍に近い」と感じたのでしょうか。 「ページネーション」とは? ブックデザイナー鈴木…

『座右のゲーテ ーー壁に突き当たったときに開く本』齋藤孝

齋藤孝氏の『座右のゲーテ』を読み終えた。 氏自身が30代で改めて読んだとき、具体的な行動の工夫を開陳した「上達論」としてとてつもなく惹かれたという“『ゲーテとの対話』を軸に、現在を生きるわれわれにも有益と思われるゲーテの言葉を選び、それを「発…

オノ・ナツメ『さらい屋五葉』1〜4

以前から気になっていたオノ・ナツメ作品を初めて読んだ。作者としては初の時代もので、既存のファンには意外な路線だったようだけれど、なんとも味わい深い。「さらい屋」とは「かどわかし」つまり誘拐を稼業とする者。「五葉」はその組織の名前。組織とい…

「プラネテス」1〜4 幸村誠

プラネテス(1) (モーニング KC)作者: 幸村誠出版社/メーカー: 講談社発売日: 2001/01/20メディア: コミック購入: 19人 クリック: 453回この商品を含むブログ (435件) を見る使用済み衛星や太陽電池…増え続ける宇宙ゴミ「デブリ」=「宇宙空間にあって役割を果…

「異形のモノに美は宿る」

『爆笑問題のニッポンの教養 異形のモノに美は宿る』を読んだ。爆笑問題のニッポンの教養 異形のモノに美は宿る 日本美術史作者: 太田光,田中裕二,辻惟雄出版社/メーカー: 講談社発売日: 2008/02/19メディア: 新書 クリック: 2回この商品を含むブログ (8件) …

「自分の顔さえ見ることなく、私たちは死んでしまう」

先月から読み続けていた佐治晴夫さん+松岡正剛さんの『二十世紀の忘れもの―トワイライトの誘惑』をようやく読み終わりました。かなり読みごたえたっぷり、かつ、理系に振れている話題が多くてわたしの頭ではなかなか理解できない部分もあったのですが、読み…

「今のど真ん中の繰り返し」

井上雄彦さんの『バガボンド』を28巻まで読んだ。ああ、いますぐにでも「最後のマンガ展」を観に行きたい。気がはやる。心に残った言葉をいくつか。 先を何も望むな先にも 後にも 寄りかからず今の ど真ん中の 繰り返し(井上雄彦『バガボンド』28巻) 武蔵…

「スラムダンク」を読み終えた

先日、「スラムダンク」を全巻読み終えた。 身体も心もぶるぶる震えて、しばし放心状態になった。この余韻から抜け出したくなくて、一切のインプットを断ちたいような衝動に駆られた。スポーツマンガには目がないほうなのに、なぜいままでちゃんと読んでいな…

瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』

実のところ、そんなに多く本を読むほうではない。けれどもある程度量のある、対象を掘り下げた原稿を身を削る思いで書いたあと、そのアウトプットによって空虚になったように感じる自分の中身を、いつも物語で埋めつくしたい衝動に駆られる。頭が疲れている…

平野甲賀『僕の描き文字』

僕の描き文字作者: 平野甲賀出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2007/05/19メディア: 単行本 クリック: 10回この商品を含むブログ (18件) を見る平野甲賀さんの『僕の描き文字』を読んだ。これまで数千冊の装丁を手がけてきた「描き文字師」平野甲賀さんが1…

『sunnybook』の文字特集

「素敵なあなたの周りにあるものは、不思議にいつも素敵です。」をキャッチフレーズに、 素敵な人を取り囲むモノたちを見る事で、その素敵な人の持つ何かを探し出す。 sunnybookはモノを見る事で素敵な人の持つ「何か」を探るミニブックです。 というコンセ…

ブログは「上手に忘れるためのツール」

『思考の整理学』で外山滋比古氏は、人間にはグライダー能力と飛行機能力があるとしている。 人間には、グライダー能力と飛行機能力とがある。受動的に知識を得るのが前者、自分でものごとを発明、発見するのが後者である。両者はひとりの人間の中に同居して…

「生きるために水を飲むような読書」をしよう。

齋藤(略)もう一つは、「言葉を味方につける」。人に言われて嬉しかった言葉は、ちゃんと手帳にメモして残しておくとか、人から来たいいメールのみ残しておく、ということをやってみる。私は携帯でメールのやりとりをすることがあるのですが、携帯に残って…

「朝飯前」のすすめ。

外山滋比古氏の『思考の整理学』を読んだ。「朝飯前」考がおもしろかった。「夜書いた手紙は、翌朝読み返したほうがいい」というのは、よく聞く話だ。朝になって読み返してみると、あまりに感情的に綴られた文章で、投函するのがためらわれる、ということが…

人間は、この世に生まれたその瞬間から、この世に受けいれられることを目指して生きている。

しりあがり寿さんの『表現したい人のためのマンガ入門』を読んだ。マンガ家とサラリーマン*1という二足のわらじを13年間はき続けた経験があるしりあがりさんだからこそ書ける本だった。「マンガ入門」というタイトルだけれど、しりあがり先生が手取り足取り…

「知ってる」という言葉が嫌い

佐治晴夫さんと養老孟司さんの対談本『「わかる」ことは「かわる」こと』を読んだ。 あるとき佐治さんは、高校で理科を担当している先生が集まった研修会で講演をしたのだそうだ。宇宙の始まりから人間に至るまでの話をし終えると、ある先生が佐治さんのもと…

謎を育てるには、自分のなかに他者を作ること。

前記事で「問いを立てる」ことの大切さを痛感したところで、しつこいようだがまたまた先日読んだ丸谷才一の『思考のレッスン』から、「問いの立て方」に関する部分を。 丸谷 考える上でまず大事なのは、問いかけです。つまり、いかに「良い問」を立てるか、…