書物は「連続と切断」からできている。

前のエントリーで、ケータイ小説「あたし彼女」のことを「ページネーションの感覚において、ウェブ上の小説より書籍に近い感覚で作られているかも」と書きました。なぜ「書籍に近い」と感じたのでしょうか。

「ページネーション」とは?

ブックデザイナー鈴木一誌さん*1の著書に『ページと力―手わざ、そしてデジタル・デザイン』があります。「ページを生み出す力」に関わる文字、デザイン、印刷、ページネーション、フォーマット、テクストといったあらゆる要素に思考をめぐらせた、実に読みごたえのある1冊です。鈴木さんの定義づけはどれも「そういう言い方があったのか!」と驚かせられつつ、すとんと腑に落ちる。この本を読んでいるあいだ、いったい何枚のウロコを目から落としたかわかりません*2

「ページネーション」の定義を引いてみると、こんなふうに書いてあります。

ひとつずつの活字を拾うことで行になり、行が集まってページとなる。ページが累積して書物ができる。この過程を、ページネーションと言う。ページネーションとは、本の一ページを生みだしていく行為でありつつ、同時にページ相互の連続性を誕生させていくことだ。(略)
鈴木一誌ページと力―手わざ、そしてデジタル・デザイン青土社,2002.11.8,P.9)

そしてまた、「ブック・デザイン」についてこんなふうに書いています。

装幀(装丁)とブック・デザインを、使い分けている。表紙カバーなどの装幀だけでなく、本文のフォーマット・デザインから図版のレイアウトなどすべてをやったときに、ブック・デザインをした、と言うことにしている。ブック・デザインには、カバーから奥付に辿りつくまでの「時間のドラマ」がある。装幀というのは、どちらかというと短距離走に近く、本文のデザインはマラソン的だろう。
「時間のドラマ」という点では、映画が参考になる。(中略)
新書一冊に収められている文字数は、だいたい一四万字前後だが、それだけの文字数をコンパクトに収納できるのはページに切断しているからだ。ページを支えているのは行という切断だ。行において、切断と連続という事件が起きているが、それも映画と似ているのかもしれない。(略)
鈴木一誌ページと力―手わざ、そしてデジタル・デザイン青土社,2002.11.8,P.313-314)

「文字」が連続して「行」となり、切断された「行」の連続が「ページ」を成す。やがてある行数に達すると「ページ」は切断され、「次のページ」へと連続していく。すべて「連続と切断」の連続からできている、それが書物(書籍/本)というわけです。

「連続と切断」の強調

あたし彼女」に話を戻しましょう。
かの作品は、この「連続と切断」をより意識的に活用しているように感じるのです。

ウェブにも「ページ」の概念はありますが、書籍に比べてはもちろんのこと、ケータイに比べてもかなり希薄であるように感じます。なにしろ紙媒体には「紙幅」という制限がありますが、そうした「限り」がないことが、ウェブの魅力の一つですから。あまりにも長すぎるページは読みづらいので、適度に改ページされますし、ページの概念を上手に取り入れたサイトもありますが、基本的に、作り手にとって改ページの自由度が高い。ケータイも紙媒体に比べれば「作り手が改ページを自由に設定」できるのかなと思いますが、媒体の特質上、あまり長い文章は表示できない*3

だから寂聴さんの「あしたの虹」を見てみても、たしかに1ページの文章量は少なめです。
けれど「あたし彼女」は「次ページへ」を押して表示されるまでの「切断」の間と、表示されたそのページを、そこに紙があるかのように使っている。

そういう「切断」の強調に加えて、どんどんスクロールさせて読ませていく「連続性」の強調、そしてそれが連なって「時間のドラマ」を成していく。「切断と連続」を強く感じるぶん、書籍の構成をしているのと近い感覚を感じてしまったというわけです。

書籍化するなら?

そんなわけで、『あたし彼女』を書籍化してみた - 60坪書店日記のアイデアもとてもステキだなと思ったのですが、「あたし彼女」は「改行」だけでなく「改ページ」に特徴があると思うので、これだと「改ページ」が崩れちゃうかな、と。できれば紙面はケータイ画面に合わせて縦長がいいですよね。

いっそのこと、経本折り(蛇腹折り)にしてみてはどうでしょう?

豆経本 心経・観音経入り

これなら縦長の判型だし、パラパラパラーッとかなりのスピードでページを繰っていけるし、もしかするといいかも。紙はもちろん、とびきりの嵩高紙*4で「分厚い本を読み終えた達成感」を演出!! けっこういいかも?! ……って、ダメですか。ダメですね。すみません。



ページと力―手わざ、そしてデジタル・デザイン

ページと力―手わざ、そしてデジタル・デザイン

*1:鈴木一誌さんには、月刊「DTPWORLD」2008年10月号の「文字は語る」でインタビューしました。 http://d.hatena.ne.jp/snow8/20080913/p1

*2:たとえば、「デザインとは、情報を公開する技術」(P.14)とか。

*3:容量的にか、読みにくいからか。

*4:説明しよう! 嵩高紙(かさだかし)とは……http://www.kamipa.co.jp/topics/index.html つまり、軽くて持ち運びやすいわりに厚みがあり、ちょっとの枚数でも嵩(かさ)の稼げる紙で、読書が得意でない人にも「1冊読み終えることができた!」という「読後の達成感」を演出してくれる、近年のベストセラーの立役者なのだ! セカチューとかね。