オノ・ナツメ『さらい屋五葉』1〜4

以前から気になっていたオノ・ナツメ作品を初めて読んだ。作者としては初の時代もので、既存のファンには意外な路線だったようだけれど、なんとも味わい深い。

「さらい屋」とは「かどわかし」つまり誘拐を稼業とする者。「五葉」はその組織の名前。組織といっても「五葉」の名の如く、剣の腕は立つが人前に出るのが苦手でお人好しのため暇を出された武士である主人公が遅れて加わりやっと5人。互いに脛に傷を持つ者たちが深く干渉しあうことをせず、それぞれの目的のもとに組んでいたが、思ったことはなんでも素直に口に出してしまう主人公の政が加わったことでその均衡は崩れ、「五葉」の過去が少しずつ露になっていくこととなる。

わかりやすく結束の固い「仲間」ではない。「仲間」を前面に出して熱く立ち回ることもない。しかし口には出さないが互いを仲間として気遣い、粋にはからう。そんな人間模様が魅力的。なかでも、とりわけ影のある男・弥一の魅力ときたら。アンニュイな雰囲気ある絵柄が生み出す、伏し目がちの表情がとてもいい。

いつも余裕ある態度を見せる弥一に惹かれる政に対し放った、弥一の言葉から。

過去は どうでもいい。
昔と 今だったら 俺は今のほうが 好きだ、
常に そう思って 過ごしたい。

だから 今を楽しむ
ただ それだけだ。

オノ・ナツメさらい屋五葉 第3集 (IKKI COMICS)小学館,2007.4.1

実際は弥一にも「今を楽しむ」ことができていない。だからこそ、己に言い聞かせるように弥一はこのセリフを言った。そう思って読むと、よりグッとくる。

「昔と今だったら 今の自分のほうが好きだ」
常にそう思えるように過ごしたい。過ごせたらいいなと思う。

第五集が出るのが楽しみだ。

さらい屋五葉 第1集 (IKKI COMICS) さらい屋五葉 第2集 (IKKI COMICS) さらい屋五葉 第3集 (IKKI COMICS) さらい屋五葉 第4集 (IKKI COMICS)