文字百景マラソン002 やげん彫り

文字百景002号は、001号でウィーンを訪ねた戸狩淳二氏が、今度は白川で石のエリクチュール*1をたどる。彼の心をとらえたのは、白川城の搦め手(裏門)に刻まれた「感忠銘」という巨大な石碑だった。その特徴は“やげん彫り”で文字が刻まれていること。やげん=薬研とは漢方医が用いた舟形でなかが深くくぼんだ金属製の器具のこと。ここに薬草を入れて扁円状の車輪のようなものをきしらせ、薬剤をつくった。このことから、“薬研彫り”とは金属や石に文字などを彫刻するのにV字形に鋭く掘る技術のことを指す。

そうしてこの石碑に魅せられた戸狩氏は、このまちの石碑を繰り返し訪ねていく。やがて、見覚えのある薬研彫りと再開していくのだ。

名工は名は残さなかったが、石に刻まれた文字は饒舌に、その石工の存在を語っていた。これまで、そんな視点で刻まれた文字を見てこなかった。「刀のきく」文字、「刀のすべる」文字。今度石碑や墓石のある場所に行ったら、それを彫った石工に思いを馳せてみたい。

*1:「筆跡・表現法」のこと。