「今のど真ん中の繰り返し」

井上雄彦さんの『バガボンド』を28巻まで読んだ。ああ、いますぐにでも「最後のマンガ展」を観に行きたい。気がはやる。

心に残った言葉をいくつか。

先を何も望むな

先にも
後にも
寄りかからず

今の
ど真ん中の
繰り返し

井上雄彦『バガボンド』28巻

武蔵が吉岡一門と1人対70人の死闘を繰り広げるなかで脳裡に浮かぶモノローグ。

闘いに「次」はない

いま!
ここ!

今ここですべてを相手に伝える!!

それ即ち
一の太刀!!

井上雄彦『バガボンド』27巻

吉岡拳法が幼少の植田良平に言った言葉。

スラムダンク』では山王工業との試合中、花道が安西先生に向かって言った
「オヤジ。オヤジの最盛期はいつだ? 全日本時代か?
オレは今なんだよ!!」
というようなセリフ(うろ覚え)が印象に残り、頭のなかでこだまし続けていた。

井上さんのマンガには、いつだって「今のど真ん中」に打ち込む、「今ここ」にすべてを賭ける男たちが、「今ここですべてを相手に伝える」と自分の魂を紙にぶつける作家によって描かれている。だからこんなに胸が熱くなるのだ、と思った。

「先にも
 後にも
 寄りかからず

 今の
 ど真ん中の
 繰り返し」

なにかを乗り越えなくてはならない時、この言葉を思い出そう。

* * * *

もう一つ、『バガボンド』28巻のソデに入っていた井上さんの言葉から。

連載を始めて今年で9年。
9年間描いて初めて書ける台詞があったことに気づく。
たった一言の台詞が含むものを過不足なく伝えるのには、
それだけの時間の積み重ねが必要だったみたいだ。

ひとことの言葉が含むものを過不足なく伝えることの難しさをしみじみと思う。
言葉は、ただその単語を書きさえすれば、伝えたいことを伝えられるわけじゃないのだ。

バガボンド(27)(モーニングKC)

バガボンド(27)(モーニングKC)

バガボンド(28)(モーニングKC)

バガボンド(28)(モーニングKC)