「世界のブックデザイン2010-11」展


印刷博物館で2月19日まで開催中の「世界のブックデザイン2010-11」展を見てきた。会場はP&Pギャラリー。割とコンパクトなスペースだが、そこに日本、ドイツ、オランダ、スイス、中国、カナダ、オーストリアの7カ国の美しい本240冊が並ぶ。瞬く間に3時間弱が過ぎた。気になった本をいくつかメモ。

「オランダの最もすばらしい本コンクール」(出展作品 http://bit.ly/ebn6qg )でまず「すてき!」と思ったのが、『Where Next With Book History?(次世代の書物史とは?)』という本。「就任講義や最終講義など、大学教授が重要な講義をする際には、地味なグレーの表紙の薄い筆記長が配布されるのが常」だそう。『Where Next With Book History?』は、ケンブリッジ大の書物史家デヴィッド・マッキターリックがアムステルダム大に招聘され、書誌学者フレデリック・ミューラーについての講義をすることになるにあたりつくられた筆記帳。

クリーム色の本文用紙の間に二回りほど小さいコート紙を挿入、本の図版がブックインブックのようにはさまれるつくり。本文のアクセントカラーに赤を用い、中綴じの綴じ糸も赤を使っていて、かわいい。解説にあった通り、本好きにはたまらない装丁。デザインはYolanda Huntelaar (Werkplaats Amsterdam) 本文書体はJuliana。

『Intensive Care(集中治療)』という本は、“人が死に直面した時どう向きあうか”というテーマを扱いながら、いや、だからこそなのか、軽やかな装丁。並製本の背がくっついていない(という説明でよいのか)「スイス式製本」で、背を見せた状態のコデックス装になっている。背から見える綴じ糸が赤青ピンクの3色で、とてもかわいい。表紙のタイトルはレーザーカットによる抜き加工。裏から見ると焦げ目がわかる。デザインはMarloes de Laat。

『Where Next With Book History?』の展示キャプション、質感やサイズの違う本文用紙が交互に入っていることを「21世紀初頭の流行」と書かれていたが、確かに、色や質感が異なる紙が数種類入っている本が多かったように感じた。

中国の『姜尋詩詞十九首(共二四)』(姜尋 著、文津出版社、デザイン:煮雨山房)は、“清朝の伝統にならい”木版印刷の手作業で印刷。麻の葉の糸綴じがかわいらしい。文字がとても美しいです。必見。

日本の作品、『一九堂100年社史』(株式会社一九堂印刷所、デザインはHosoyamada Design Office)は、重厚な本をイメージさせるタイトルとは裏腹に、小型の愛らしい本。革紐をほどき、本を開くと、ポップアップ絵本となっていた。街の様子など、細部を思わずじっくり見てしまう。

第45回造本装幀コンクールの文部科学大臣賞、『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』(デザインは松田行正さん、日向麻梨子さん)は、見るたびその美しさにため息が出る。深い黒の表紙と、三方の小口を染めた青との対比。分厚さの割に、持ち上げると軽やか(本文用紙はアドニスラフ80)。
もうすぐ絶滅するという紙の書物について

ユングの『赤の書』もすごかったな。直筆原稿の美しさ。
赤の書 ―The“Red Book

ほかにも、クロスを表裏逆にしたドイツの本とか、本フランス装をグラシン紙でくるんだ『マラルメ全集』とか、総片観音の『手塚治虫を装丁する展 図録』とか……、ドイツの『地下鉄のザジ』のジャケットをとって現れる表紙はとてもかわいかったし、とにかく見応えたっぷり。手にとってじっくり眺められる貴重な展覧会なので、興味のある方はぜひ。

ある本の展示キャプションに「補強し調和を保ちながら効果を高め合う『本という建築』」という言葉があったけれど、ブックデザインは建築に似ているな、と思いながら眺めた展覧会だった。2月19日まで。