「秀英体100」展

1月11日からギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で文字好き待望の展覧会が開かれている。大日本印刷のオリジナル書体「秀英体」の100周年を記念して行われている、その名も「秀英体100」展だ。


いまから100年前の明治末期、秀英舎が開発した活字は完成期を迎えていました。明治36年、43年、大正3年と立て続けに総合見本帖を発行しただけでなく、各活字サイズ・書体ごとの全字種見本帖も発行され、秀英体が量・質ともに充分だったことがうかがえます。

活版印刷からDTP用のフォント、あるいは電子書籍や映像で使われるなど、100年の間に秀英体も大きく変化してきました。そして2009年11月を皮切りに、モリサワから一般販売が開始され、より多くの方々の手に秀英体が届く環境が整ってきました。

今回の企画展では、秀英体生誕100年を記念し、DNPが創業当時から引き継いできた秀英体という文化資産の魅力を、より広く一般の皆様に親しんでいただくことがねらいです。

秀英体の四季

ギャラリーの1Fでは、24名+一組のグラフィックデザイナーによる「四季」をテーマに作成された新作ポスターを展示いたします。平成の大改刻で開発した秀英初号明朝、秀英明朝L/M/B、そして目下開発中の秀英角ゴシック&丸ゴシックを使ったポスターで、秀英体の新たな魅力をお伝えします。

出展作家 25名(予定、五十音順、敬称略)

浅葉克己・井上嗣也・葛西 薫・勝井三雄・佐藤晃一・佐野研二郎・澁谷克彦・杉浦康平・杉崎真之助・祖父江慎・高橋善丸・立花文穂永井一正中島英樹・長嶋りかこ・仲條正義・中村至男・南部俊安・服部一成・原 研哉・平野敬子平野甲賀・松永 真・三木健 + コントラプンクト(デンマーク

http://www.dnp.co.jp/shueitai/event/gggshuei/index.html

出展作家の豪華な顔ぶれを見ただけで、どれほど充実した内容かが想像できる。わくわくしながら会場に足を踏み入れて、唸ってしまった。「秀英体」「四季」というテーマのなかで各作家が作品を制作しているのだけれど、見事にバラエティに富んでいる。秀英体の文字そのものをモティーフとした作品、秀英体で印字するにふさわしい言葉を配した作品、100年ものあいだ使われ続けてきた「文化資産」である秀英体という存在からインスピレーションを得てビジュアルに落とし込んでいる作品……。それぞれの作家の「文字をテーマにした作品」の捉え方が垣間見えて、とても面白かった。

そして地下1階、こちらは足を踏み入れた瞬間に、「わああ!」と歓喜の声を上げたくなるようなスペース。秀英体の歴史、どのような書体があるか、生まれてからこれまでどんな広告や書籍などに使用されてきたのかが楽しく展示され、職人の映像が流れる横に鉛活字がびっしりと並んだ活字棚まで置かれている。活字、写植、デジタルフォントの原字も展示されており、その美しさにうっとり見入った。

画期的なのは、それぞれの原字が誰の手によるものかが、展示で明記されていたことだ。日本の活字は「無名無冠の種字彫師」の手によって生まれ、その後も書体制作者の名前が表に出ることは少なかった。秀英体も、もともとの種字をだれが彫っていたかはわからないという。そして今回の展覧会までは、写植やデジタルフォントにおいても、だれがそれを作っているのか公にはされてこなかった。それがこうして展示や、18日に行われたトークショーなどで制作者にスポットが当たったことが、なによりうれしい。

地下の展示は、壁面いっぱいを使用しているのはもちろん、低い位置に展示ケースが置かれていたり、活字棚は首を伸ばしながら上のほうを眺めたりと、かなり“身体を動かして見る展示”で、はっきりいって楽に見られる展示ではない。けれど、1月12日に行われた港千尋さんと大日本タイポ組合のギャラリートークを聞いて、それは秀英体の展覧会にとてもふさわしい形であるように感じた。

港さんはかつてフランス国立印刷所*1秀英体活字を伝える大日本印刷を撮影した『文字の母たち Le Voyage Typographique』という写真集を出版されているが、フランスの撮影のあとで大日本印刷を訪れたとき、「なるほど、動くんだ」と思ったのだそうだ。

欧文は文字数が少ないため、フランスでは文選*2の時にはあらかじめ使用する活字をだいたい運んできてしまってから組版をしていた。しかし日本語は文字数が膨大だ。だから、文選の際には文字の置かれている場所を探して、活字棚のあちこちを動きまわらなければならない。「活字はmovingなもの」というイメージを持ったのだという。

秀英体展の地下1階もまさに「文選をするように」身体を動かしながら見る展示だ。隅から隅まで楽しめる要素が詰まっている。12日のギャラリートークの前に観に行ったが、楽しみどころがたくさんあって、堪能しきれなかった。ゆっくりと時間をとって、ぜひもう一度行きたい。会期は1月31日まで。

1月12日のギャラリートーク港千尋さん×大日本タイポ組合)、18日の秀英体展示室見学&トークショー秀英体 平成の大改刻の道のり」(片塩二朗(朗文堂)+鳥海 修(字游工房)+石岡俊明(リョービイマジクス)+伊藤正樹DNP秀英体開発室))にも行ってきて、どちらも書きたいことがいろいろあるのだけれど、長くなってしまったのでまた改めて。とにかく、「文字大好き!」な人も「なんとなく興味がある」という人も楽しめる展示なので、よかったらぜひ。

*1:2006年に閉鎖

*2:使用する活字を棚から拾うこと