「Helvetica forever: Story of a Typeface ヘルベチカ展」

土曜日、ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)に「Helvetica forever: Story of a Typeface ヘルベチカ展」を観に行ってきた*1


誕生から半世紀を経た現在でも、最も知られた欧文書体として根強い人気を保ち続けている「ヘルベチカ」。今回の企画展では、幅広い用途に使える造形と調和性で、身近な街角の書体から多くのグローバル企業の指定書体まで、世界市場を席巻し驚くべき広範囲にわたり使用されているこの魅力的な書体を取り上げます。
会場では日本人デザイナーを含む数多くの国のグラフィックデザイナーによってデザインされたポスターや数々のグッズなど、ヘルベチカを使用した様々な時代の作品や資料を展示。その魅力と実績を、ラース・ミュラー社代表のラース・ミュラーデュッセルドルフ応用技術大学のヴィクトル・マルシー、フィリップ・トイフル、三氏のキュレーションによりご紹介いたします。

ギンザ・グラフィック・ギャラリー

昨年10月にラフォーレミュージアム原宿で開催されたHelvetica展「A tribute to Typography 〜ヘルベチカの過去・現在・未来」 - 雪景色に続いての、欧文書体「ヘルベチカ」の展覧会。今回は亀倉雄策氏の東京オリンピックのポスターや、田中一光氏のハウス食品のポスター、井上嗣也氏のモリサワのポスターなども展示されており、日本においてもヘルベチカが長く愛されてきたことがより実感できる内容となっていた。

会場に掲示されていた解説によれば、日本にヘルベチカが入ってきたのは東京オリンピック(1964年)の時といわれているそうだ。東京オリンピックのデザイン懇談会委員を務めていた原弘氏*2が「ノイエ・ハース・グロテスク*3」を使用したいと大日本印刷に打診し、大日本印刷がハース社とオリンピック限定使用を条件にライセンスした金属活字「ノイエ・ハース・グロテスク」が使用されたのが、日本に入ってきた最初なのだという。写植のヘルベチカは、1980年前後に写研がハース社とライセンスし、販売され始めたそうだ。

無機質であるがゆえにさまざまな場面で使われるヘルベチカは、それが文字として紙面に、あるいはプロダクツに定着された時に、見る人の情感を激しく揺さぶるものに姿を変えたりする。展覧会場は土曜日ということもあり、とてもにぎわっていた。世界中で最もポピュラーな書体のひとつであるヘルベチカを、多くの人が熱心に見入っている光景に、ふと、とても不思議な気持ちになった。

「文字」という「意思伝達の手段」が、どうしてこんなにも人々を惹きつけるのだろう。

先月発売した『文字講座*4に、服部一成さんのこんな言葉を書いた*5

文字がただ意味を伝えるための手段にすぎないのなら、
読めさえすればいいはずだ。
なのになぜ僕らは、文字の形に思いを馳せるのだろう。

展覧会を観ているあいだじゅう、この言葉が頭のなかでこだましていた。

自分の意思をだれかに話して伝えようとするとき、その言葉が大切なものであるほど、どんな声で、どんな調子で、どんなスピードで、どんな音量で伝えればよいのか、慎重に考えるのではないだろうか。すでにいろいろなデザイナーが言っていることだけれど、「文章」にとって、「書体」は「声」のようなものだ。どの書体を使うかによって、観る人に与える印象が時に微妙に、時に大きく異なることになる。

ヘルベチカは無機質でバランスがよく、幅広い場面に使いやすい。けれどもだからこそ、メッセージをぶらさずに相手に伝えてくれるのかもしれない。

地下会場に、「ノイエ・ハース・グロテスクからヘルベチカまで、製作に関わったすべての書体の校正刷りをはりつけた」エドアード・ホフマンの日誌ファイルの一部が展示されていて、とても興味深かった。ひとつの書体をどんなふうに検討して完成度を上げていくのか。これはとても貴重な日誌だ。

会場には映画「ヘルベチカ 〜世界を魅了する書」が流されていた。ラフォーレミュージアム原宿で放映された際に観た後、じっくり観たくて買ったのだけれど、まだじっくり観れていないことを思い出す。

ヘルベチカ ~世界を魅了する書 [DVD]

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また、展覧会に合わせて、ラース・ミュラー、ヴィクトル・マルシー両氏による著書『Helvetica forever ヘルベチカ・フォーエバー ータイプフェイスをこえてー』が刊行されている。

Helvetica forever ヘルベチカ・フォーエバー -タイプフェイスをこえて-

Helvetica forever ヘルベチカ・フォーエバー -タイプフェイスをこえて-

  • 作者: ヴィクトール・マルシー,小泉均,ラース・ミューラー,森屋利夫
  • 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
  • 発売日: 2009/02/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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展覧会は2月28日(土)まで。

*会場風景はこちら http://www.dnp.co.jp/CGI/gallery/news/detail.cgi?type=0&seq=0000020

*1:残念ながら、この日の夜に開催されたトークショーには行けなかったのですが。これはもう、本当に残念!

*2:昭和期の日本を代表するグラフィックデザイナーの一人。

*3:1957年にハース鋳造所の手組み用活字として発表された当時の名称。1960年に、名称を変更し"ヘルベチカ"としてステンペル社から発表された

*4:一冊すべての構成・まとめを担当しました。

*5:トビラのリード文。P.101