電子出版の夢は、eBookリーダーならではの表現にこそある――『eBookジャーナル』Vol.1で、植村八潮氏の記事を執筆

最近の仕事……というには時間が経ち過ぎてしまいましたが、昨年11月下旬に創刊された『eBookジャーナル』Vol.1で、東京電機大学出版局の植村八潮さんのインタビュー記事を執筆しました。

電子出版ビジネスを成功に導く総合誌

日本の電子出版ビジネスは黎明期にあり、マーケットは混沌とし情報は錯綜しています。
リーダー端末のデファクトは? データフォーマットは何を選ぶべきか? 売れる配信プラットホームはどこなのか? 権利関係をクリアするにはどうしたらいいのか? などなど、わからないことばかりのなかでビジネスを進めていかなければなりません。
そのような状況のなか、Vol.1では「どうなる? どうする!? 日本の電子出版」をテーマに、リーダー端末、配信プラットホーム、ビューワソフトウェア、制作ツール、データフォーマット、権利・法律関係の6つのカテゴリーにおける現状を整理し、そこから課題を抽出します。

http://book.mycom.co.jp/ebj/68398-68.shtml

まさに「どうなる? どうする!? 日本の電子出版」という状況のなか、「電子書籍ブームには、実体がないんです」という第一声から、電子出版のこれまでとこれからについてよどみなく語る植村さんのお話は、とても興味深いものでした。最初の見開きのみですが、記事イメージはこちらから見られます。

eBookジャーナル』は隔月で発行とのこと。今月末にはVol.2が発売予定です。

eBookジャーナル Vol.1 (マイコミムック) (MYCOMムック)

eBookジャーナル Vol.1 (マイコミムック) (MYCOMムック)

「科学の料理の仕方 〜メディアの仕掛人が教える科学の特別レシピ〜」を聞いてきた。

11月20日(土)、サイエンスアゴラ2010の一イベント「科学の料理の仕方 〜メディアの仕掛人が教える科学の特別レシピ〜」を聞きに行ってきた。

科学を伝達するメディアをプロデュースする仕掛け人やその他の伝え方のプロが、科学が受け手に「伝わる」ために行っている様々な工夫や考え方、相手の心をどうつかむかの手法をディスカッションするトークイベントです。

http://www.scienceagora.org/scienceagora/agora2010/program/show/B47

パネリストは下記のとおり。

パネリスト
 井上智広氏(NHK 科学・環境番組部専任ディレクター)
 樋江井彰敏氏 (TBS 飛び出せ!科学くん」担当プロデューサー)
 菅本裕久氏(静岡新聞社「静岡かがく特捜隊」担当)
 湯本博文氏(学研 科学創造研究所所長)
ファシリテーター
 内田麻理香氏(カソウケン、サイエンスコミュニケーター)

いずれも魅力的なコンテンツを生み出している方々が「伝える」ことについて語るトークセッション。分野は違えど「伝える」ことを仕事をにしている者として、これはおもしろそう、と申し込んだという次第だ。トークでは、まずパネリストそれぞれの仕事が紹介され、そして内田さんの進行により、科学が伝わるために大切なことについて議論が交わされた。

「わかりやすいか」より「わかりたくなるか」

まずNHKのディレクター井上氏の最近の仕事としてNHKスペシャル「MEGAQUAKE 巨大地震」の冒頭が流れた。ひとたび起これば、世界の都市に破滅的な被害をもたらす巨大地震。その様子をCGを駆使してリアルに、重く描きだす。次に流れた映像はとあるバーのカウンター。作家である男性が地震をモチーフにした作品の構想を女性に話す、その様子を見ながら西村雅彦扮するバーテンダーが心のなかでちゃかし続ける。冒頭とは一転してコミカルなドラマ仕立て。井上氏はそれを「違和感に伝えたいことの本質を込めた」と語る。

「巨大地震のような起きてもいないことを真剣に見る気にはならない。それを突きつけられた視聴者の感覚をドラマとしてはさみながら、ハードボイルドな科学的探求を進めていった」

ためしてガッテン」の番組制作に5年間たずさわった井上氏は、その時に学んだことが自分の番組づくりの原点になっているのだという。「ためしてガッテン」高視聴率の秘訣は「知りたくなること・楽しいこと・意外性のあること=脳を喜ばせるスパイス」。「楽しさ・驚き・喜び・感動」が「脳をやる気にさせる栄養素なのだという。「『わかりやすいか』より『わかりたくなるか』。メディアとして、わかりやすく語るのは前提条件に過ぎない。『この先を知りたい』と思いたくなる番組づくりを心がけている」

「番組は突っ込まれてナンボと思っている。突っ込みたくなるような番組にしたい」という言葉にプロフェッショナリズムを垣間みた。

プロセスも科学

TBSで「飛び出せ! 科学くん」を制作している樋江井氏は、風船カメラで成層圏の撮影に成功したというVTRを流しながら、「プロセスも科学じゃないか」という話。発端は「スペースシャトルの窓から見えている風景を、自分たちで撮影することはできないか」ということ。

今回の科学くんは緊急特別企画!!宇宙から地球を撮影する! 巨大風船に小型ハイビジョンカメラを装着! 遥か上空30000メートルまで打ち上げ、青き地球の全貌を動画で撮影するという壮大なプロジェクト! 海上に落下したカメラ!決死の回収作業! 構想3年?制作費ゴールデン並み!苦難の果てに、宇宙から生還したカメラには とんでもない映像が映っていた! ハイビジョンカメラではなんと世界初映像! やっぱり地球は青かった

最初は無謀じゃないかと思えた企画を、協力者を得て実行に移し、成功に至るまでのプロセスから放映したようだ。
「人間の脳はまわりにあるものを何でも知りたいと思うものだという。ものを調べてものを知ろうとするという、人間がこれまで行なってきたプロセスを視聴者に疑似体験してもらうことによって『知りたい』という本能に訴えかけている」。結果だけを伝えるのではなく、失敗に終わったら「失敗しました」とプロセスから伝えることで、視聴者の共感を得るおもしろい番組になっている。

こどもの「?」を「!」に変える

静岡新聞社の菅本氏は、静岡新聞に月に2回折り込まれる「こども科学しんぶん」を担当。毎回「指令」を出し、それに対して回答を寄せてくれたこどものところに取材に行き、紙面をつくる。これも「科学くん」と同じく、プロセスを紹介することで「?」から「!」への変化を読者と共有する。子どもと一緒に写真にうつっている両親がとても楽しそうな顔をしているのを見て、「大人も前のめりになって実験をしている姿が印象的。プロセスを伝えてもらえると、忘れていた『?』を思い出しますね」と内田さん。

自分が欲しいものをつくる

そして最後に、学研の湯本氏は、残念ながら今年の春に休刊となってしまった『学研の科学』、また現在は『大人の科学』の付録を開発している。『科学』はピーク時の1979年で670万部つくり620万部売れていたのだそうだ。自身も『科学』の付録にわくわくした経験から、それをつくる人になりたいと学研に入社した。「自分が感動したい。自分が欲しいものをつくる」がモットーだという。

「人は、よくわかると感心する。しくみを目で見て理解できると、脳が喜ぶ」と、紙コップの蓄音機で実演してくれた。紙コップに向かって話すと、コップの底が震え、その震動が取り付けられた針に伝わる。針は波形のキズを、針先に当たるよう設置されたプラスチックのコップにつけていく。そのキズを針でなぞると、見事再生されるというしくみ。思った以上にクリアに録音されていて、会場がわいた。まさに「脳が喜ぶ」ことを実感した実演だった。「百聞は実験にしかず」とは湯本氏の言。

初期衝動の大切さ

4人のお話に共通していたのは、「自分が欲しいから、作る。自分の見たいものを見に行く。自分の知りたいことを調べる。そしてその過程をともに楽しんでもらう」ということだった。

たとえば井上氏は、「自分が知りたくないことを、人に知って欲しいと思わない。だから自分の知りたいことをテーマにする。ただしマニアックすぎると共感が得られないので、みんなもそうじゃないかな、と思えることをテーマに選ぶようにしている」という。以前は「どうぶつ奇想天外」を担当していたという樋江井氏も、「ホッキョクグマを見てみたい、あの動物に会ってみたい……、自己中心的かもしれないが、そういう思いを発端に番組をつくっている」。子どものころの感覚に戻って番組づくりに取り組んでいるという。学研の湯本氏はまさにそれを地で行っている感じだ。

「伝える」というときに、つい大義名分を考えたり、必要以上に世間一般のことを考えてしまいがちだけれど、まずは「伝え手」が本当にそれを「知りたい、欲しい、見たい」と思っているか。それは決して自己中心的なのではなく、そうした強い思いがなければ、だれかの心を震わせることはむずかしいのではないか。さらに、同じ分野で仕事をし続けていると、反響を気にするあまり、はじめに抱いていた「知りたい、欲しい、見たい」という初期衝動を忘れてしまうことも多々あると思うが(私自身、何度か経験している)、そのピュアな思いを抱き続けていること、いつも初心に帰り続けられるということが、「伝える」という仕事をする人には大切なのではないか。

「自分が欲しいから、作る。自分が見たいものを見に行く。自分が知りたいことを調べに行く。それを視聴者(読者)と共有する。一緒に体験する。ともに楽しんでもらう」

そんな原点に改めて気づかせてもらったトークセッションだった。パネリストのみなさん、内田さん、ありがとうございました。

活字地金彫刻師・清水金之助さん実演@印刷のいろは展、盛況でした!

過日お知らせしたとおり、11月12・14日に印刷のいろは展で活字地金彫刻師・清水金之助さんの実演会が行なわれ、私も解説としてお手伝いをしてきました。

両日とも、実演を開始早々、清水さんのまわりにはたくさんの人が集まり、その神業に見入っていました。

そして清水さんはいつものように、彫りながら気さくにお話をされ、その人柄で周囲を魅了していました。

今回はなるべく多くの方に清水さんの手業を見ていただけるよう、手元を拡大して映し出すモニターも準備しました。

「活字地金彫り」の解説や清水さんの年譜をまとめたボードも設置。また、展示コーナーには清水さんがこれまでに彫られた種字の数々を並べました。

最後はサイン会になっていました。
清水さんの実演をご覧になった方たちが皆さん笑顔で、感動してくださっている様子をそばでずっと見ていて、本当に楽しかったです。足をお運びくださったみなさま、本当にありがとうございました。そして清水さん、今回もお疲れさまでした。

12/11タイプデザイナートーク「書体デザインの現在と未来」開催

小宮山博史さんが編まれた『タイポグラフィの基礎―知っておきたい文字とデザインの新教養』の刊行を記念して、連続セミナー「タイポグラフィの世界」が12〜3月にかけ5回にわたり開催されることになりました。

screenshot

その第二回、12月11日(土)タイプデザイナートーク「書体デザインの現在と未来」で、司会をさせていただきます。

登壇は岡澤慶秀さん(游築見出し明朝体ヒラギノUDなど)、片岡 朗さん(丸明オールド、丸丸ゴシックなど)、鈴木 功さん(AXISフォント、金シャチフォントなど)、西塚涼子さん(かづらき、りょうなど)。

“それぞれ異なるアプローチから書体デザインに新風を吹き込んできたデザイナーたちが一堂に介するトークセッション。今日の書体デザインにおける諸課題から開発裏話まで、書体についてまるまる語りつくす120分。”

4人のタイプデザイナーの書体のつくりかたを一度に見られる機会はなかなかありません。下記のサイトから予約を受け付けています。一昨日から予約をスタートしたのですが、すでに定員の3分の2以上のお申し込みがあったようです。お早めにご予約ください。

場所は印刷博物館、15〜17時です。

申込&詳細はこちら。
http://visions.jp/b-typography/index.html

※12/4は小宮山博史さんによる「恋の四馬路か虹口の街か――明朝体活字の開発と東漸」@印刷博物館、また第3回以降も下記のように充実の内容です!

第3回
石川九楊、タイトル未定」〈司会〉鳥海修
 2011年1月29日(土)会場・時間未定
第4回
平野甲賀、自作を語る」〈聞き手〉日下潤一
 2011年2月8日(火)午後7時より 神楽坂シアターイワト
第5回  パネルディスカッション
電子書籍タイポグラフィ〈仮題〉」
 2011年3月19日(土)午後2時より 阿佐ヶ谷美術専 門学校 422教室

活字地金彫刻師・清水金之助さんの実演@印刷のいろは展、11月12・14日に開催

11月12日(金)〜14日(日)に大田区・鵜の木の印刷会社金羊社オールライト工房が「印刷のいろは展」を開きます。
ここで活字地金彫刻師・清水金之助さん(88歳!)の実演会を行うことになり、不肖私も解説で参加します。

12(金)14:00〜18:00
14(日)12:00〜16:00

※土曜日の実演は、いまのところ、行われない予定。
※予約不要なので、上記時間中でしたらお好きな時にいらしてください。


活字地金彫(活字直彫、種字彫刻)とは、活版印刷で使われる活字のもととなる母型(凹型)を作るための、さらにもととなる種字(父型)を、鉛と錫の合金である活字材に左右逆字でじかに凸刻していく技術のことです。わずか数ミリ四方の小さな活字材に、下書きもなくまたたくまに美しい文字を彫り上げる匠の技を間近で見られる貴重な機会です。新聞などに使用される大きさの文字を原寸・逆字でまっさらな活字材に下書きなしで彫刻していくさまは、まさに神業。ご興味のある方は、ぜひ足をお運びください。

いろは展では活版印刷シルクスクリーン印刷、箔押しなど、さまざまな印刷も体験できるとのこと。『デザインのひきだし』編集長の津田さんの仕事机も展示されるそうです。

印刷のいろは展


清水さんの実演の様子(拙ブログ)
活字地金彫刻師・清水金之助さん米寿記念実演会 - 雪景色
活字直彫師・清水金之助 個展 - 雪景色



『デザインのひきだし 11』「名工の肖像」で箔押しの匠・佐藤勇さんインタビュー

10月はじめに発売された“プロなら知っておきたいデザイン・印刷・紙・加工の実践情報誌”『デザインのひきだし』11号。今回の連載企画「名工の肖像」*1では箔押しを追求し続けてきたコスモテックの匠・佐藤勇さんにご登場いただきました。

デザインのひきだし11

コスモテックのブログは数年前から拝見していて、おもしろい試みを次々としている会社だな……と思っていたのですが、佐藤さんがTwitterを始められてそのツイートを拝見しているうちに、どうしてもお会いしてじっくりとお話を伺ってみたくなったのです。にこにことうれしそうに笑いながらお話してくださる佐藤さんの姿に、本当にこの仕事がお好きなんだなあとしみじみ。どんなことがあっても現場に立ち続けるお姿に勇気をいただきました。

工場で箔押し作業を見学させていただいていたら、機械の横に置かれていたデスクに拙著『文字をつくる 9人の書体デザイナー』が! 取材で私が伺うと決まった後、すぐに購入、目を通してくださったのだそうです。お心遣いに感激してしまいました。

佐藤さんの「箔押し人生」、ぜひお読みいただければ幸いです。

もちろん、『デザインのひきだし』全体はさらに濃密! まず外観からしてすごい。なにしろ、地券紙に特色刷り+ホログラム天金加工という造本です。これまでに天金加工をした雑誌があったでしょうか。みなさまぜひ、お手に取ってご覧ください。

『デザインのひきだし11』の詳細(デザインのひきだし制作日記)

『デザインのひきだし11』

デザイン・印刷・紙・加工テクニック情報が満載!
今回は2大特集。
「インキの魔術師」+「こんな印刷・加工 どこでできるか探してた!」

自分の発想したデザインを、いかに効果的に印刷/加工表現するか。そんなデザイナーに必須な印刷・紙・加工などの技術情報をわかりやすく紹介する『デザインのひきだし』。第11号である今号では「インキの魔術師」と題し、使いこなせば低コストで特殊な印刷威力を発揮できる、オフセット印刷用インキを特集。またもう1つの特集として、今まで頼みたいけど、どこでいくらくらいでできるかわからなかった、紙への刺繍や薄紙への印刷などをご紹介した特集2も、付録満載で読み応抜群。永久保存版の1冊です。

『デザインのひきだし11』発売です! : デザインのひきだし・制作日記

デザインのひきだし11

デザインのひきだし11

*1:本作り・もの作りの現場でその道数十年、現場で神様と呼ばれるような名工の方々へのインタビュー連載です。

自分に素直に、ななめに進んできた道――『デザインノート』No.33で、えぐちりかさんの記事を執筆

9月末に発売された『デザインノート』*1No.33で、「TBS6チェン!」や「HOW TO COOK DOCOMODAKE?」など話題のプロジェクトの数々を手がけてきた電通のアートディレクター・えぐちりかさんの記事を執筆しました。

えぐちさんは6月に第一子を出産されたばかり。まだ2カ月にならない小さな赤ちゃんを腕に抱き、愛おしそうに見つめながら微笑むポートレートが印象的です。初めての妊娠出産のなかでも「少しでもいいものをつくりたい」というえぐちさんのこだわりはまったく緩むことなく、周囲を気遣いながら真摯に仕事に取り組み続けた様子と、そのよどみなく明快な語り口に魅了されました。

えぐちさんの手描き企画書や、撮影現場の様子、スタッフからの手紙など、メイキングビジュアルも豊富です。ぜひご覧いただければ幸いです。

*1:公式サイト http://design-note.jp/