「建築家 坂倉準三展」でグッドデザインの原点にふれる

先日、パナソニック電工 汐留ミュージアムで開催中の「建築家 坂倉準三展 モダニズムを住む 住宅、家具、デザイン」展に行ってきた。

昭和の激動を刻んださまざまな出来事や社会的課題に、坂倉準三は建築作品のみならず、他の領域のクリエイター達と関わりながら広義のデザイン活動によって回答を提示していきました。本展は、大扉の原寸大再現の試みに始まり、椅子の意匠の変遷、図面、写真、模型、映像などの展示を通して、坂倉準三の住宅、家具、デザインの仕事をとりあげます。公共建築から都市のターミナル開発など大型の仕事を紹介する神奈川県立近代美術館鎌倉の本展第1部[5月30日-9月6日]と併せて、建築家として社会に多様なデザインの可能性を見出した坂倉準三の全貌を明らかにします。

http://panasonic-denko.co.jp/corp/museum/exhibition/09/090704/index.html

神奈川県立近代美術館 鎌倉「建築家 坂倉準三展:モダニズムを生きるー人間、都市、空間」との二部構成で、異なる切り口でこの建築家の全貌を紹介しようという試みだったけれど、残念ながら神奈川のほうは会期中に訪れることができなかった。しかしながら、坂倉準三本人が「住宅は建築のもっている本質的なものを全部もっているように思う」と語るように、パナソニック電工 汐留ミュージアムの住宅と家具が中心の展示は、彼の魅力をじゅうぶんに伝えてくれる、見ごたえのあるものだった。

住宅のなかに入る家具にもこだわったという坂倉の「小椅子」をはじめとした優美な曲線によるフォルムは、見ているだけで愛着を感じさせてくれるようなあたたかみがあった。和室用にデザインされたという低座椅子には実際に座ることができたのだけれど、座面の高さといい、身体をあずけた時の安定感といい、とても座り心地のよいものだった。

坂倉準三はまた、工業製品の意匠を語るのに「工芸」「図案」という言葉しかなかった1950年代において、「デザイン」という言葉や概念を浸透させていくために大きな役割を果した一人だった。1957年に制定されたグッドデザイン制度においては、制定から4年間、選定委員長を務めたという。グッドデザインの考え方について書かれた当時のリーフレットが展示されており、興味深かった。そこに書かれていたグッドデザインの定義は次のとおり。

グッドデザインがよいデザインというのは、キレイにまとまっているだけでなく、そのものがもっているはたらき(機能)が充分に果され、材質が吟味され、丈夫で使いやすいものでありたいのです。形が美しいというのは、そういういろいろの要素がムリなく一つの形にもりこまれた上でのはなしです。グッドデザインの運動は世界各地で活発に行なわれていますが、日常の生活器具や道具を愛し使うことは私達の生活を豊かにするために最も大切なことと信じて選定を続けております。

松屋グッドデザインコーナー ミニリーフレットより)

デザインのまわりで仕事をしていながら、「デザインってなんだろう」「なぜわたしはデザインということに惹かれるのか」と考えることがあったけれど、「日常の生活器具や道具を愛し使うことは私達の生活を豊かにするために最も大切なこと」という言葉が、そういう問いへの答えをシンプルに示してくれる気がした。「くらしを豊かにしてくれるもの」、そしてそれを生み出す人々に、きっとわたしは強く惹かれるのだろう。「くらし」という言葉で、バラバラだった自分の興味が、またつながったような気がする。

「建築家 坂倉準三展 モダニズムを住む 住宅、家具、デザイン」展の会期は9月27日(日)まで。

▼展覧会図録