文字は語る「葛西薫さんに聞く ロゴタイプ」


取材・執筆を担当している月刊DTPWORLDの連載企画「文字は語る」2008年12月号*1は、サントリー烏龍茶やユナイテッドアローズの広告で知られるアートディレクター葛西薫さんの登場です。サントリーコーポレートロゴやTORAYA CAFE、雑誌『ku:nel』など、数々の名作ロゴタイプを生み出している葛西さんに、ロゴタイプづくりで大切にしていることをうかがってきました。

企業名や商品名に用いられるロゴタイプ
そのデザインは個性的であるべき、と思い込んではいないだろうか。
できる限りインパクトが強く、印象に残るものを作らなければ、と。
数々のロゴタイプを手がけてきた葛西 薫さんはしかし、
「たいていの場合、無個性を目指す」という。
   ーー月刊「DTPWORLD」2008年12月号「文字は語る」リードより

そよ風のようだ、と思います。
葛西さんのデザインは、そよそよと草原をなでるそよ風のように心地いい。
押しつけがましいところなどひとつもなく、自己主張は決して強くないのに、気がつくと心の奥深くにじんわりと染みこんで、忘れられないものになっているのです。

いったいどうしたら、こんなことができるのだろう、と思っていました。謎の一部は、葛西さんにお会いして解けました。それは、葛西さん自身がそよ風のように静かな人だったからです。

けれども、文字についてお話をうかがううち、葛西さんは決して「静かな人」ではない、と思いました。語り口は、とても静かです。しかし内に「文字が好きだ、デザインが好きだ」という熱い思いを秘めているのをひしひしと感じるのです。ひとたびそれらについて話し始めると、途端に少年のような輝きを目に宿す。こういう方のお話は、例外なく聞いていて楽しい。

お話のなかで、こんな言葉が出ました。
「文字の気持ちになって考えてごらん」
自分が文字になったとしたら、どうだろう。隣の文字とこんなにくっついて並んでいたいだろうか。隣の文字とこんなに離れていては、寂しくないだろうか。きれいに並べてもらえなかったら、悲しくならないだろうかーー。

同様のことを、葛西さんはいろんなものに対して言うのだそうです。「紙の気持ちになって考えてごらん」かっこわるい文字を載せられたら、いやでしょう?「シーツの気持ちになって考えてごらん」嫌いなやつが自分のうえに寝転がったら、どんなにいやだろう!

葛西さんは、いつもいろんな人やものの気持ちになって物事を考えている。だからきっと、葛西さんの作品はとても心地よいのだろうな。もちろん、それだけが理由ではないでしょう。けれども、なんだかとても納得してしまったインタビューでした。

リード文にも書いたように、「個性的であれ」と肩に力の入りがちなロゴタイプで、無個性を目指すという葛西さん。はたして、その心は……? ぜひ、みなさんに読んでいただきたいです。

葛西薫さんの作品集

葛西薫の仕事と周辺 (Director and Designer SCAN)

葛西薫の仕事と周辺 (Director and Designer SCAN)

『アイデア』no.312の「葛西薫特集」の号がとても良かったのですが、版元のサイトを見るとSOLD OUTのようです。この号は、府川充男さんの『聚珍録』に関するインタビューも載っていて文字好きさん必見の一冊なので、書店などで見かけたらぜひぜひ入手をおすすめします!