「倉俣史朗 To be free」藤塚光政展

過日、西麻布のギャラリー「夢のカタチ」で行なわれている写真家・藤塚光政さんの個展を観てきた。清潔感のある小さな白い空間の壁に、倉俣史朗作品を撮影した写真が1点ずつガラスの板にはさまれ、立てかけられていた。ふっと目を向けては目を離せなくなる写真ばかりで、ギャラリーのなかを何度もまわった。

倉俣史朗が語った、国際的にも有名な「重力から解放されたい」(I want to bi free of gravity)という言葉がある。重力から逃れられないのは自明だが、倉俣は生涯、この難問に立ち向かった。ときには光を構造に転換し、あるいは透明性や反語やユーモアを用いて、物体を浮かせて見せた。また、五感でとらえた微細な切片を記憶の抽斗から取り出し、爽やかで濃密な官能を加えることによって、見たこともない作品を生み出したのである。倉俣は重力ばかりか、あらゆる束縛や概念からの離脱を目指していたのだろう。

ーーDMに書かれた藤塚光政氏の言葉

目を離せなくなったのは、写し取られている倉俣作品そのものの美しさもさることながら、そこに得がたい体験が存在したからだ。写真を通して初めて見ることのできる風景。光と影をあやつる写真家だけが切り取ることのできる景色。こっくりとした影の描写が、そこに写し出される建築や家具に、まるで生命が宿っているかのような力強い存在感を与えている。

「カリオカビルディング」では、ガラスは内と外の世界に接していることに着目し、ビルの内側を撮影しながら向かい側のビルや街の様子をガラス面に映しこませ、内外の対比を1枚の写真に定着させている。見るほどに不思議な作品だ。

現在発売中の『モダンリビング』2009年7月号には、「ニッポンの建築を撮り続けて半世紀 藤塚光政のまなざし」として、9ページにわたり特集が組まれている。1960〜2009年までの約50年間にわたり藤塚さんが撮り続けてきた「印象に残った建築」の写真を、年表としてまとめている見開きが圧巻だ。

倉俣史朗 To be free」藤塚光政展は6月13日(土)まで。
ギャラリー「夢のカタチ」港区西麻布1-8-4 13:00-19:00
グラフィックデザイン平野敬子さん。

モダンリビング185

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