「良い伝え手」に必要なこと

内田麻理香さんのブログを拝見したら、自分の名前が出ていて驚きました。

 3年前のmixiに書いた言葉を掘り起こしてみます。今見ても、彼女の発言はまったく古さを感じないし、色あせていない。雪朱里 さんにお会いした時、彼女から出た言葉。

「ある分野の挫折組は、その分野の伝え手として適切かもしれない」

 挫折組というと言葉が悪いかな。「ある分野に憧れた経験のある人」と言い換えても良い。そんな人が物事を伝えようとする場合、その分野に理解があるし、そしてなにより憧れと愛がある。それは伝え手として良い条件ではなかろうかということ。

 雪さんが携わっているデザインノート という雑誌は、編集長をはじめとして、みんなデザイン分野に憧れた経験がある人が多いんですって。

http://ameblo.jp/marika-uchida/entry-10262308217.html

なつかしい。麻理香さんとはなんだかんだで長いおつきあいになりますが、互いに刻一刻と置かれている状況や抱えている仕事が変わっていくので*1、いつ会ってもたくさんの「気づきの種」をもらっています。この時は自分自身、誰のために書くのか、誰に向けて書くのか、どんな思いで、どんなスタンスで書くのかについて考えをめぐらせていた時期で、そんな話になったんだと思います。

わたしは近年、デザイン誌を中心に仕事をしていますが、デザインを専門的に学んだことはありません。ただ、かつてグラフィックデザイナーという職業にあこがれ、あきらめたという経験があります。要するに「デザインの挫折組」であるわけです。だけど、そんな自分だからこそ、「伝え手」としてその「かつてあこがれた経験」が活かせるのかもしれない、そう思ったんですね。

もうひとつ、「かつてあこがれた経験」をもつ人が「伝え手として適切」である理由として、「アマチュア(あるいは第三者)の目をもつ」ということがあると思います。ある分野に対し、幅広い人に興味をもってもらいたい、その分野の楽しさを知らせたいという目的がある場合、特にこの「アマチュアの目」が不可欠であるように思うのです。それはつまり、「受け手の気持ちを想像しやすい」ということに通じると思うから。

たとえばわたしはデザインのなかでも、ここ数年「文字」という分野に関心をもっているんですが、「文字」の世界は奥深く、アカデミックな研究に基づき素晴らしい実績を残されているデザイナー/研究者の方がたくさんいらして、かえって気楽に「文字が好き」と言えないような空気を感じることがあります。文字のことを知りたいと思っても、専門書の内容は高度で、どこから手をつけて良いのかとまどうことしきりです。そういうなかで、自分自身が圧倒的に知識不足であると感じるわたしとしては、「なんとなく文字が気になる」「文字のことをもう少し知りたい」と思う人の「最初の一歩」になれるような情報を提供していくことこそが、アマチュアである自分にできる仕事なのではないかと思うのです*2

そういうふうに考えていくと、「科学コミュニケーター」として科学の楽しさを多くの人に伝えようとしている麻理香さんの活動はとても参考になるもので、いつも「デザイン」「文字」に置き換えながら、彼女の発言を噛み締めています。

最後に、麻理香さんへの返歌として、彼女がエントリでもう一つ触れてくれていた「ばらばらだと思っていた点がいつしか線になる」に関する文章を掘り起こします。こちらはなんと約4年前! 最後のところで「30代って楽しい!」と書いていますが、そんな30代も折り返しの折り返し。年月の経つのは早いですね……。

「すべてがつながる時がくる」

今日取材でお会いした方*3が、こんなお話をされました。

これまでさまざまなことに興味を抱いてやってきて、バラバラだと思っていたけれど、実はそれらはバラバラではなく、数珠のようにつながっていた。人生のあらゆる時点で行ってきたことが、つながる時がくるのだなあ、と。

ちょうどここのところ自分が考えていたこととまさに同じで、膝を打って同意してしまいました。

最近つくづく思うのは、これまで自分は一貫性のない志向でやってきたと思っていたけれど、実はすべてちゃんと「今」につながっているのだ、ということ。

絵が好きだった、文章を書くのが好きだった、民俗学やフィールドワーク、印刷物への興味、エディトリアルデザインへの憧れ……。気がつけば全部いまの仕事につながっている、とか。

高校時代に書いた将来の目標、苦し紛れに「ジャーナリストのようなもの」としたけど、着地点はそうひどく離れた場所でもなかったな、とか。

さんざん迷って模索して、時には迷走してきたと思っていたのに、30代になってふと振り返ると、全部ちゃんとつながっていた、そうぶれてなかったと思える、という不思議。

「その時々にやりたいと思ったことをやればいいんだよ」
人生のかなり先輩であるその方はそうおっしゃいました。
「人生で無駄なことは何もない」という言葉をまた、思い出しました。

20代の頃の迷いがなく、あの頃よりふてぶてしく。ああ、30代って楽しい!

*1:いや、ここ数年の麻理香さんの進化ぶりはすごいので、もっともっとがんばらねば!といまは刺激をもらう一方なのですが。

*2:このあたりについては、「永遠のアマチュア」というエントリでも書いています。http://d.hatena.ne.jp/snow8/20090226/p1

*3:グラフィックデザイナー/折形デザイン研究所主宰の山口信博さん http://www.origata.com/