しあわせの味
ホットケーキが好きだ。子どものころから、ずっと。おいしいホットケーキの話を聞くと、食べずにはいられなくなる。
人形町に「カフェテラス ワコー」という喫茶店がある。ある方から「とても美味しいナポリタンを出してくれるお店がある」というお話を聞いたのが、そのお店の名前を聞いた最初だった。どんなお店か気になって検索してみて、そこに掲載されていた1枚の写真に、わたしは釘づけになった。
表面はみごとに均一なキツネ色、美しい円形に焼かれたホットケーキ。なにより目をひいたのが、その表面と側面をつなぐ角がピシッと鋭角だったこと。こんなにきれいなホットケーキは見たことがない。一度見たら、どうしても食べたくてしかたがなくなってしまった。そのホットケーキを、先日ついに食べることができた。
写真で見たとおりの美しいキツネ色のまんまるな表面。カリッと焼き上げられているからこそ、側面との角がピシッと出ている*1。そして3cmはあろうかという厚み。きれいに絞られたバターとクリームもうれしい。メープルシロップをかけていただくと、ほんのりとした塩味と甘み、香ばしさとふかっとした食感とに、なんともしあわせな気持ちになった。
そう、わたしにとってホットケーキは「しあわせの味」なのだ。子どものころ、『しろくまちゃんのほっとけーき』という絵本が大好きだった。
それもあるけれど、きっとなにより、幼いころに母がホットプレートでホットケーキを焼いてくれた思い出、目の前でまんまるなホットケーキが焼き上がっていくのをながめるあのしあわせな時間が、強く心に残っているからなんだろうなと思う。
もうひとつのわたしの「しあわせの味」が、カップヌードルだ。それも、しょうゆ味。
実はわたしと同い年で、それだけでも縁を感じるのだけれど、理由はそこじゃない。小学生ぐらいのころ、家族でよく遊びに行った公園の横に、カップヌードルの自動販売機が置いてあった。家族でバドミントンを楽しんだあとに、そこでカップヌードルを買って、青空のした、緑の公園で食べたあの味が、原体験のように自分のなかに残っている。だからあれからずいぶん経ったいまでも、カップヌードルを見るとなにか特別な気持ちになる。
以前「ゆで卵の幸せ」というエントリーにも書いたけれど、2007年10月に放映されたNHK「課外授業・ようこそ先輩」の深澤直人さんの回で、深澤さんは子どもたちに「人々の普通の生活を観察し、使う人がちょっとだけ幸せになれるデザインを考えよう!」という課題を出していた。そのとき、ある子どもが作ったオムライス型のレストランメニューを見て、深澤さんは「この子はしあわせのかたちを知っている」と言ったのだ。
モノというのはなにか忘れがたい体験とむすびついたときに、しあわせの形になる。それはなにも、とびきりスペシャルな体験である必要はない。日常のなかのほんのささいなしあわせ。でもそういうものこそが、「しあわせの形」「しあわせの味」として、無意識のうちに深く心に刻み込まれるような気がする。
ワコーのホットケーキはとてもおいしかった。今度はぜひナポリタンを食べに行こう。
*1:セルクル(型)を用いて作っているからこその美しいかたちのようです。ちなみに、注文してから焼き上がるまで20〜30分かかります。