「建物のカケラ 一木努コレクション」展 〜江戸東京たてもの園その1〜

週末、小金井公園内にある江戸東京たてもの園に行ってきた。

約7ヘクタールの敷地に、江戸時代から昭和初期まで27棟の復元建造物が建ち並ぶ施設だ。茅葺きの農家から洒落た商店、モダンなお屋敷まで、さまざまな建造物が移築されていて、見ごたえがある。一つひとつの建物をじっくり見ようと思ったら、かなりの時間が必要で、事実、わたしも今回は全部を見て回ることはできなかった。

今回の目的は、展示室で行われている特別展「建物のカケラ」展を観ることだった。

建物は何百何千からの部材で組み立てられています。ひとたび建てられた建物は、それを取り巻く人々との関係性を通じ、機能性や有用性を越えた多様な意味を育んでいきます。しかし、いかなる建物も、時間が経てばその多くが解体される運命にあるのです。本展では、現役の歯科医師でもある一木努氏が所蔵する建物の「カケラ」を通じ(展示資料650点以上)、往時の建物が存在した場所性と時代性、人々との関係性に思いをはせます。一片の「カケラ」が喚起する建物にまつわるさまざまな記憶=物語を共有することで、失われゆく歴史的建造物や伝統的町並の保存・継承活動のあり方について考えるきっかけを提供したいと思います。なお、展示資料のいくつかに関しては、実際に触れていただくことができます。

http://www.tatemonoen.jp/special/index.html

このコレクションを所蔵する一木努氏が、建築学者というわけでなく、歯科医師という本業をもちながら趣味として建物のカケラを集め続けているということに、まず驚いた。カケラを集める特別なルートなど、もちろんない。だから一木氏は、こんなふうにして集めたのだそうだ。

建物のカケラを手に入れるには、解体中に、その仮囲いの中に入って、取り外すか、拾い上げるかしかない。後から入手するのはほとんど不可能だし、解体前も難しい。
そのため、解体の日程を把握し、現場を巡回しながら頃合いをみて交渉、承諾を得て、現場に入り、選択、採集、運搬という手順になる。(略)
江戸東京たてもの園 特別展 日本の建物<第四部>建物のカケラ」解説小冊子P.2より

そしてそれを「本業に支障をきたさない、現場の人に迷惑をかけない」などの信条を守りながら、40年にわたり続けてきたということを、展覧会冒頭のパネルを読んで知り、すでに感動してしまった。氏をそこまでさせた情熱の源となったのは、一体なんだったんだろう。

会場に集められたカケラたちは、実に雄弁だった。見ようによってはただの石ころでしかないのに、それがいつごろ、どこに建設された建物の、どの部分だったのかという解説とともに見ると、もやは石ころなどではなく、目の前にその建物が建っているかのような気持ちにさせられるのだ。ほんの小さなカケラからでさえ、職人たちのこだわりが、そこで暮らし、時を過ごした人たちの気持ちが伝わってくる気がする。キュレーターの浅川範之氏が書いたこの一文に、カケラの魅力が語り尽くされている。

カケラは、職人の手のぬくもり、こだわりの断片である。カケラは、人々の思いや感情、記憶の断片である。カケラは、建物が築き上げた関係性の象徴であり、その消失を必死でくい止めようとした一木努の断片である。ーーそのカケラの美しいこと。(略)
江戸東京たてもの園 特別展 日本の建物<第四部>建物のカケラ」解説小冊子P.28より

意匠的に美しい、レリーフやステンドグラス、タイルだけでなく、なにげないカケラたちも、ほんとうに美しいのだ。エレベーターの部品や換気口(風抜きグリル、通風口なども)の金具類は、なんだかとても魅力的な凝った意匠が多い。「場のカケラ」と題して文字通り山と集められた東京のカケラたち、遠くに展示されたものの細部まで見られるようにと双眼鏡が置かれていたり、展示方法も楽しいものだった。一木氏には、ぜひこれからもカケラを集め続けていただきたい。そしてまたこのカケラたちと再会できる機会があればいいなあ、と心から思う。

さて、江戸東京たてもの園、あんまり楽しかったので一度には書き切れない。続きはまた後ほど。