ナガオカケンメイさんの「情熱大陸」

仕上げなければならない雑誌原稿があれやこれやと重なっていたけれど、ほんの少し、ひと段落。そんなわけで録画したままきちんと見れていなかったナガオカケンメイさんの「情熱大陸*1を見た。

ナガオカさんは、自らを「喧嘩師」と言う。番組冒頭で「自分ではデザインをしないのに、ちゃっかり賞だけはもらっている」として出ていた「グッドデザイン賞」とのかかわりだって、最初はナガオカさんが仕掛けた喧嘩から始まったのだ。あるいはグラフィックでザイン界を相手取っての喧嘩。しかしなぜだかやがて、喧嘩を売られた側はナガオカさんを賞賛するようになる。

ナガオカさんが喧嘩を売るとき、それは相手のことがとても好きなときだと思うのだ。愛情があるからこそ、見過ごせない。愛情があるからこそ、行く末を本気で心配する。やりとりの過程でそのことに気づくからこそ、喧嘩を売られた側はいつのまにかナガオカさんに協力するようになる。

新プロジェクト「NIPPON VISION*2について、ナガオカさんはこう説明していた。

「長く続いている伝統工芸品なり地場産業も、継承問題ですごく悩みがあったり、地元らしさを失いかけてて全部東京のコピー状態になりかけていて。恐ろしいことですよね。NIPPON VISIONは、昔からあるものをどうやって作り直していくかというか、売り直していくかというか。すごくいいよって言って売り直したい。売り直しブランドですね」

ナガオカさんのすごいところは「売り場まで責任を持つ」というところだと思う。自分がいいと思うものをちょこっと取り上げるとか、ちょっと店に置いてみる、というような一時的な関わりではない。それを置いてくれる売り場の開拓まで責任を持って行い、良いものがそれを欲する人の手に届け、不要になれば引き取ってまた販売し、また別の「それを欲する人」へとつないでいく。そういう循環のしくみを作ることを、いつでも念頭に置いていることだと思う。選定から開発、販売、買い取り……というその過程で「無責任な部分」がひとつもない。腹のくくりかたがすごいなと思う。

モノが持つ歴史を、ナガオカは尊ぶ。それが使う人の歴史でもあるからだ。モノは、人に使われ、無駄な部分が削ぎ落とされることで、洗練されたデザインとなっていく。

人が生きて生きて行くかたわらには、たくさんのモノがある。モノとどうつきあうかで、幸せの形も決まる。

ナレーションが語っていたこれらの言葉は、自分自身のテーマとして引きつけてじっくり考えていきたいと感じた。

「田舎に行けば行くほどデザインを感じますよ。あ、デザインはここにあったんだって思います。そこから、最近、東京のデザインと言われているデザインをよく見るんです。そうすると、『あれ、間違ってるな』と思う。どの工場に行っても、食べていくための製品があって、それでみんなが100年くらい食べてるんですよね。だから願いを込めて、デザインってこっちであってほしいと思いますよね」

「日本って、新しいものをどれだけ買えるか、高価なものをどれだけ買えるかが豊かさになっていて、それって全然、ちゃんちゃらおかしいと思うんですよ。闘うしかないんで、闘いますけど」

応援してます!

最後に、内容がすこしずれてしまうけれど。

「昔のデザイナーって雑誌にたとえると『暮しの手帖』みたいな、要は良き生活者だった。自分で欲しくないものなんて作らなかったんですよね。いつのまにかデザイナーが表面的な形だけを作る職業になり下がってしまったために、自分で作っておきながら使い勝手が悪いとか、環境に悪いとか。そういう『ものの作り方』は違いますよね」

わたしはデザイナーではなくライターだが、「表面的な形を作る」部分における自分たちの仕事の罪について、このごろよく考える。「それ以上にもそれ以下にも見せない、対象そのものを描く」文章を、自分は書いているだろうかと。「あるがまま」を書かないとき、ライターも「表面的な形だけを作る」職業になり下がると思うのだ。もちろん、いろいろな事情はある。だからこそ、「それ以上でもそれ以下でもなく、あるがままの対象を描く」ことが許されるライターでいられたら、と切に思う。

D&DEPARTMENT PROJECT】http://www.d-department.jp/
 →ナガオカさんが手がけるデザインプロジェクト http://web.d-department.jp/project/

【過去に雪がナガオカさんにインタビューした雑誌記事】
『デザインノート』No.12「今見逃せないベテラン&新鋭 11人のアートディレクション」 - 雪景色
『デザインノート』No.18 独立最前線 - 雪景色

【ナガオカさんの著書】

ナガオカケンメイの考え

ナガオカケンメイの考え

ナガオカケンメイのやりかた

ナガオカケンメイのやりかた

この2冊を読むと、ナガオカケンメイさんのものの考え方がかなりよくわかります。おすすめ。ちなみに、色違いでシリーズもののような装丁ですが、版元は別の会社です。寄藤文平さんのブックデザインです。