邪魔、このありがたきもの。

先日に引き続き、齋藤孝氏の『座右のゲーテ』から。
先日のエントリーで「小さな対象を扱う」という話に対し、id:pollyannaさんがブクマコメントで「この技術は、日々の暮らしで乗り越えなければいけない「山」にも通じるのかなあ、と思ったり。」と書いてくださったのだけれど、まさに『座右のゲーテ』に書かれている数々のノウハウや考え方は、仕事にはもちろん、日々の暮らしに役立つなあと思うものが多かった。とりわけ、育児と絡めて連想することがいろいろとあったように思う。

その最たるものが今回書く「邪魔の効用」。
ある仕事を進めている間に数えきれないほどの邪魔が入り、しょっちゅう計画が中断されたことについて、ゲーテが「心中ひそかに、どうともなれと思ったこともしばしばあった。だが今では、それらすべての邪魔をありがたいと思う気になっている」と語っていた*1ことを引き、齋藤氏はこんなふうに言っている。

 邪魔の効用の一つは、中断されたことによって、仕事の質が高まることがあるということだ。
齋藤孝座右のゲーテ -壁に突き当たったとき開く本 (光文社新書)』光文社,2004.5.20,P.162)

これで真っ先に思い浮かんだのが、「仕事と育児との両立」ということだった。
なにしろ育児というのは、不測の事態の連続だ。子どもは突然熱を出す。「仕事を進める」という面からだけ見れば、「予期せぬ邪魔」である。病気だけじゃない。子どもと暮らす以上、学校や保育園に通うという生活リズムに則って生活を送る必要がある。特に保育園の間は、毎朝決まった時間に送っていき、決まった時間にお迎えに行かなくてはならない。この「お迎え」に、世の仕事を持つ母(もちろん父の場合もあるけれど)が、どれほど悩まされ、翻弄されていることか!

わたしの仕事の場合、取材など外出仕事とお迎えの兼ね合いが一番の悩みの種だが、それだけじゃない。原稿を書いていて、よーしノッてきたぞ〜!と思ったそのときに、お迎えの時間を迎える空しさ。どんなに嫌でも中断せざるをえない苦しさ。
「お迎えがなく夜までずっと仕事をしていられたなら、どんなにたくさんの仕事ができることだろう!」
そんなふうに夢想したりもしたことだった。

そしてそんなチャンスがやってきたのだ。夏休みに子どもたちだけで実家に泊まりに行ったのである。朝から晩まで好きなだけ仕事し放題! 忙しい時期だったこともあって、わたしは小躍りした。ブラボー!

ところが、だ。
いざその時を迎えてみると、確かに仕事時間は長くとれたけれど、効率としては……。外出の予定がなく終日こもって原稿を書いていたりすると、1日になんのメリハリもない。夜遅くまで仕事をすることはできたけれど、最後のほうはどうにも効率が悪かった気がしてならない。

普段から朝も夜もなく仕事をしている方々から見れば「なにを甘えたことを!」と怒られてしまいそうだけれど、やはり子どもがいることで強制的に生活のリズムを作らされていることが、フリーランスの自分にとっては良いアクセントになっていたのだと、このときやっと気づいた。「お迎え」というどうにも動かせないタイムリミットがあるから、なんとかそこに間に合わせようと必死になってがんばるし、お迎え〜子どもの就寝までは、校了前などののっぴきならない時期を除いては仕事には触れられないので、強制的に「原稿やアイデアを寝かせる」状態が作られる。

「子どもがいるぶんフットワークが重く*2、条件の悪いライターである」という自覚があるぶん、だからこそ質を下げてはいけないと常々崖っぷち状態。それもまた、「火事場の馬鹿力」のもとになっているような気がする。

そう、育児中って「日々是、火事場」。
以前「やりたいこと」にたどり着く近道 - 雪景色というエントリーを書いたこともあったけれど、その状況がかえってチャンスに結びついているということもある。

 振り返ってみると、私は今まで壁に突き当たってそれで終わったということがあまりない。ライバルや競合相手と差別化できるポイントは何だろうかと再び真剣に考える。そうして徹底的に考え抜くと、新しい道が見えてくることが往々にしてある。
 それはなぜか。考える時間が増えることで理解が深まる。新しいアイディアが生まれるのは大抵何かトラブルに見舞われたときだ。現実の障害が刺激となって脳がフル回転し、最終的に劇的な変化へとつながるのだろう。
 つまり、仕事上起きた不都合な邪魔は、より高次の次元にいたる原動力だとも言える。正・反・合の弁証法のようなものだ。実際、邪魔を邪魔と思わず、もっといいものを生み出すチャンスなのだと考えるとストレスが少ない。仕事には邪魔が入るもの、トラブルが起きるもの。そういう心づもりでいればいい。
齋藤孝座右のゲーテ -壁に突き当たったとき開く本 (光文社新書)』光文社,2004.5.20,P.163)

思うようにいかないからこそ、知恵を絞る。
「邪魔」こそチャンス。

忘れないようにしよう。

*1:齋藤孝座右のゲーテ -壁に突き当たったとき開く本 (光文社新書)』光文社,2004.5.20,P.161

*2:あくまでわたしが置かれている条件では、ということです。お子さんがいてもフットワークの軽い方はたくさんいます。