デザイン物産展ニッポン

ナガオカケンメイさんの日記*1や「情熱大陸」を見て、以前から楽しみにしていた展覧会「デザイン物産展ニッポン』が今日から始まったので、早速行ってきた。

ものづくり大国、日本。積み重なる歴史の中で、わたしたちは自分たちが作り出した「もの」で、自分たちらしさを感じてきました。グローバルに物事が激動する中でも、わたしたちはものを作り出しています。そして、多くの作り手がそんな時代の中で強く感じていること。それは「日本らしいものづくりをしているか」ということではないかと、思うのです。(略)
デザインというフィルターを通して、47都道府県が自分たちらしさを持っているか、また、ひとつひとつの場所で日本らしさをどう表現しているかを、物産展のスタイルを引用したこの企画展を通じて感じて頂けたらと思います。
(「DESIGN BUSSAN NIPPON」展コミッショナー ナガオカケンメイさんの言葉より)

お昼頃に着くと、会場はとてもにぎわっていた。初日なので、取材とおぼしき人もちらほら見かけたが、なんといっても年齢層の幅広さが印象的。20〜30代のデザイン好きな人たちから、松屋銀座という場所柄と「物産展」という言葉がついていることがあるのだろう、お年寄りまで、さまざまな人たちが47都道府県の「デザイン物産」が並ぶ展示台を熱心に見入っていた。

入口でiPod touchを借り*2、音声と映像によるガイダンスを見ながら、一つひとつ都道府県の台を見てまわった。ガイダンスのナレーションはナガオカさんが自ら吹き込んだもの。47都道府県分、すべてだ。ガイダンスがなくても、展示物と展示台に書かれている解説だけで、もちろん十分に楽しむことができる。けれどもガイダンスのなかには、47都道府県分すべてを自分の声で語りたいというナガオカさんの強い意志と、それぞれの都道府県、そしてそれぞれの展示物にまつわる物語が在った。その土地土地の美しい風景が、美しい音楽とともに流れる。すべてではないが、職人による製造工程の映像が流れもする。そんなガイダンスとともにまわっていると、展示物一つひとつが、より愛おしいものに感じられる。

木目の美しさ、ということが一つ印象に残った。伝統工芸品にはやはり木工品が多い。それぞれ使用する木も加工方法も異なるが、どれをとっても息をのむほど木目が美しい。

フォルムの美しいものが多かったことも目に焼き付いた。ことに、高岡銅器の風鈴の、あの美しさはどうだろう。

見ていくにつれ感じたのは、古くから受け継がれてきたものは、使えば使うほどに、その「使われた」痕跡が美しさに磨きをかけていくということだ。あるいは、使い込むことで機能が上がっていく。たとえば、使うほどにアクなど不要なものを吸着して、お茶の味、色、香りを引き立ててくれる常滑焼きの急須のように。時間をかけてそうやって磨かれていくものは、そのぶん、手をかけて作られている。せっかちに手に入れられるものや、むやみに安さを求めたものでは、そういう「痕跡の美」は得られない。

この展覧会の一番すごいところは、こうした展示物が販売されているということだろう*3。ここに来て、土地の個性やその土地で作られてきたものにまつわる物語を知れば、欲しくなる。手元に置きたいと思う。そうした「それを必要としている人」に確実に届けるということを、ナガオカさんは展覧会を通じてやってのけている。地場産業においてデザイナーが招かれる際に、「作る人=地元の人たち」「考える人=デザイナー」だけがいて「売る人」が不在であることが多いと、展覧会図録に小泉誠さんが書いてらしたが、「考える人」と同時に「売る人」の役割をも担っているのがナガオカさんなのだ。

展覧会で展示して、どんなに「素敵だな」「きれいだな」と言われても、買わなければ、長く受け継いでいかれない。自分自身を顧みながら、これからの生活のありようと、ものづくりのこととを考えた。

しかしなによりこの展覧会を見終えて思うのは、「日本全国を旅したい」ということ。雑誌『Re:s』のスタッフが全国をまわって撮ったという写真はどれも素晴らしく、47都道府県すべてに旅に出たい、と思った。

展覧会会期は9月1日(月)までと短いので、気になるという方はどうぞ急いで。その際、iPod touchでのガイダンスはぜひ楽しんでください。自分のiPod TouchiPhoneを持参してもよいそうですよ。

*1:ナガオカ日記 http://web.d-department.jp/blog/

*2:借用にあたっては、身分証明書の提示が必要

*3:一部、展示のみのものもあり。