肩書きのつけ方や言葉の定義に、職業観が表れる。

前の記事で新しい名刺のことを書きました。今回の名刺で従来と変更したのは、紙やインクの色、デザインだけではありません。これまでは「Writer & Editor」としていた肩書きを、「ライター/編集」と変えました。直接的には松本弦人さん*1に名刺をお渡しした時、「んんん……? ワイン&バーにしか見えない(笑)」と言われてしまったことが理由なのですが(笑)、もっともだなあと。やっぱり日本人には日本語が一番目に飛び込みやすいし、ひと目で理解しやすいんですよね*2そう思っていたにもかかわらず、つい肩書きを英語表記していたのは、「肩書きをどうつけよう」という迷いの表れでもありました。ひと目ではわかりにくい英語表記にすることで、うやむやにしようとしてたんですね。わー、こう書くとすごく卑怯者な感じだなぁ。

「ライター/編集」というたったこれだけの肩書きのつけ方にも、自分自身の職業観が表れてるなあと思います。「編集」より「ライター」を先に書いているということは、わたしが自分自身を「編集者でもありますが、書くことがわたしの仕事の主体です」と考えていることを示しているのですね。それから、「編集」の肩書き。これ、迷いました。「編集者」とつけるのもなんだか変な気がして「編集」としましたが、「ライター」とそろえるなら本来は「編集者」ですよね。うーん、みなさんどうしているんだろう。

そんなことを書きながら、id:kasokenさんが書いていた「活動すべき立場の人がするメタ議論はキライです」という記事を思い浮かべていました。職業を表す言葉の定義って、kasokenさんも言っているように、やり始めると「定義し続けて結論が一向に出ず、結局行動できなく」なりがちなんですよね*3。議論を進めるうえでの前提としてある程度の定義は必要なのかもしれないけれど、「だれもが納得する結論」を導きだすのは至難の技なんじゃないかと思います。特に、その範囲がとても幅広く、とらえようによってはどんなことでも仕事に含まれるような職業に関しては。誰もがまったく同じ考えに納得するなんてありえない。だって、「職業を表す言葉の定義」ってつまるところ一人ひとりの「職業観」そのもので、「考えようによってはどんなことも仕事に含まれる」ほどの余地があるぶん、十人いれば十通りあるほどに多種多様なことが想像されるからです。

以前、mixiを見ていて「おもしろいなあ」と思ったことがありました。mixiにはたくさんの編集者が参加していますが、プロフィールの職業欄を見ると、その名乗り方がバラバラなのです。

クリエイター系とする人。
営業・企画系とする人。
専門職とする人。
ほかにもあるかな……?

「編集」の仕事には営業・企画的なものもあれば事務的な作業もあり、ものづくりまでも含まれる……という具合に、とても幅広い。サービス業的な部分もあります。まさに「とらえようによってはどんなことでも仕事に含まれる」職業です。だから、とても定義しづらいんだと思います。「ライター」の場合は「書く」作業が必ず含まれるという縛りがあるぶん、「編集」に比べると圧倒的に範囲は絞られますが、それでも、「クリエイター系」とする人、「専門職」とする人に分かれるでしょう。自虐的な意味合いも含めて「ガテン系」とする人もいるかもしれません。

その定義を統一する必要はまったくなくて、ただ、「どう名乗るか」ということにその人の職業観が表れていておもしろいなあと思うのです。

たとえばわたしは、「専門職」と名乗っています。わたしの場合はどうしても自分の仕事を、編集はもちろんライターの仕事も含めて、「クリエイティブ」と言うことができないんです*4。もちろん「ものづくり」をしているとは思っているのだけれど、わたしの仕事は自らの独創性を活かすというよりは、取材対象ありきのもの。だから、だれかかほかの人の独創性を伝える「イタコ」「翻訳者」であったり、ものごとをわかりやすくするための「演出家」であると思うのです。文章を書いてはいて、「それこそクリエイティブだ」と言う人もいるかもしれないけれども、それは必要とされる場所に必要とされる文章を必要とされる文体で書くという、きわめて職人的な文章なんです。あるいは、民俗学のフィールドワークに似た感覚でもあるかもしれません。「記録したい」という思い。

本や雑誌を作るために行なっている作業の一つひとつはいかにも職人的で、だから自分の感覚には「専門職」というのが一番しっくりきます。

けれども、先にも書いたとおり、「編集者はクリエイターです」あるいは「編集者はクリエイターではありません」という結論がビシッと出る問題ではありません。ただ、同じ言葉で呼ばれる職業に対してこんな風にいろんなスタンスと職業観で取り組む人がいるということ自体がおもしろいなぁと思うんです。つまりは肩書きや職業名って、共通認識であるような顔をして、受け手によってまったく違う印象を成すものなんですね。先のkasokenさんの関連記事を読んでいても、「ライター」に「批評家」を含めている方がいて、わたし自身は驚きました。けれどもその方にとっては、「ライター」というのは「文章を書くことを生業とする人全般」を指すんでしょうね。

「定義論」と同じくこの記事もなにを結論とするやら、という感じですが、いろんな人がいろんな定義をするような仕事、つまり定義が決まりきっていない仕事って、裏を返せば自分の考え方次第でどんなことでもできちゃうということで、それこそがその仕事の魅力なのかもしれないな、というのが個人的な感想です。…って、やっぱり話がずれちゃったかな。まりかさん、ごめんね。

*1:"After Prison Uncut" http://bccks.jp/bcck/10736

*2:いや、そう思うのはわたしが英語できなさすぎだからかもしれませんが。

*3:「定義」そのものを目的とした議論を行うなら脱線にはならないのでしょうけれど、kasokenさんはそもそもそれを望んでいないわけですし。

*4:わたしにとって「クリエイター」とは、なかなか登ることのできない高みにいる存在というか、自分にそういう才能がないことを痛感する日々なので、特別視しすぎてしまっているところもあるかもしれません。とにもかくにも、おこがましくて、とてもじゃないけど自分のことを「クリエイター」とは言えないのです。