関心の理由
「文字」というものに関心を寄せている。たぶん、印刷会社に勤めていた十数年前、写研の書体見本帳をうっとりと眺めていたあの頃からずっと*1。
どうして「文字」が好きなんだろう?と思った。はっきりとした理由なんてどうでも良いくらい、どうしようもなく「文字」というものに惹かれた。
仕事にするよりずっと前から、わたしにとって、文章を書くということは大切な行為だった。書かれた文章は、文字を介してしか形にできない。思いを定着できない。人に伝えられない。文字がなければ文章は書けない。成り立たない(わたしにとっては話し言葉より書き言葉のほうが、いっそう大事なのだ)。「伝えようとする切実な思い」ということに、わたしは反応しているのかもしれない。
文字はずるいな、と思う。
デザインにはかなわないな、とも思う。
わたしたちライターがどんなにがんばって良い文章を書いたとしても、それは文字を介してのみ人に伝えられるから、どんな書体が使われるかによって、どうしても第一印象は左右される。その文章が載っている場のデザインによって人はそれを読もうか読むまいか、瞬時に判断する。
ぱっと一目見ただけでは、文章の中身は伝えられない。きちんと読んでもらいさえすれば、文章は時に人の心を揺さぶることもできるけれど、そこまで誘引するにはどうしたって、文字を、デザインを頼りにするよりない。
だからわたしはデザイナーに嫉妬する。かなわないなと思う。
そして、だからわたしはデザインを伝える存在でありたいと思う。
自分の身のまわりに存在するほとんどすべてのものは、どこかのだれかが作ったものだなんて、考えるだけでぞくぞくする。その「どこかのだれか」に話を聞きたい。
自分の作品であることより使い手のことを考える、影となり支えてくれる、そんな存在にこそ、わたしは惹かれる。そういう存在を、伝えていきたい。
「関心の理由」を一度きちんと言葉にしなければいけないなと思いながら、ここ数カ月、つらつらと考えていたことの覚え書きまで。
*1:しかし知識は圧倒的に足りない。日々勉強です。