「キモ若」なんて、ふっとばせ!

「キモ若」ってご存じですか?

近頃の女性誌の流行りのキーワードに「大人かわいい」というのがある。

そしてもう一つ雑誌から生まれた言葉で「キモ若」、「老けカワ」というのがある。
こちらは雑誌『Tarzan』でこの夏特集された、「30歳からの老けビジュアル注意報!」という中にあった言葉だ。
“若作りが不自然でムリがある人”を「キモ若」、“年相応の可愛らしさを上手に演出している人”を「老けカワ」と表現していて、なかなか言い得て妙である。

「大人かわいい」と「キモ若」は紙一重!? (2007年9月28日) - エキサイトニュース

「大人かわいい」について検索していたら、めぐりあってしまったこのコトバ。
「キモ若」って!「キモ」って!ひーーーーっ。

言いたいことはわかる。わかるんだけど、他人事でない年齢にある身としては、「キモ」って言うなー!と泣きたくなる言葉である。id:kasokenさんも書いていたが、すさまじい破壊力。ひとたびこの言葉を知ってしまったら、「だだだ大丈夫?! アタシ大丈夫?! キモ若になってない?」と恐怖感を抱かずにいられない。
てなわけで、同年代のあいだで近ごろ「恐怖のキーワード」として語られていたわけである。

ところで先日、図書館に行った際、なぜだか宇野千代の本に呼ばれた気がして借りてきた。これまで1冊も読んだことがなかったのに。『私のお化粧人生史』という本である。

田舎育ちの宇野千代が女流作家としてデビューし、最初の小説集の出版記念会が丸ビルにある精養軒で開かれることになった。「丸ビルと聞くとまるでニューヨークにある摩天楼のような建物だと」思い、宇野千代は夜も眠れない。そうして精いっぱいのおしゃれで会場に向かう。洋服を着た女性がまだ少ないその時代に、生まれて初めて靴を履いて。

私はいまでもあのときの自分の姿をまざまざと思い浮かべることが出来ますが、靴は飛び上るように踵の高い白い蛇革のハイヒール。洋服は淡桃色の薄物縮緬(ジョーゼット)のアフタヌーン。肩にも裾にも袖口にもそれはそれは念入りにぴらぴらと沢山のフレアのついた、まるで歌劇に出て来るお姫さまの着るような洋服なんです。それから帽子はと言うと、まア、花笠ですね。やっぱり桃色の薄物縮緬で張った鍔(つば)の広い帽子で、ぐるりに一ぱい造花の薔薇の花がくっついているんです。
宇野千代私のお化粧人生史』,1984,P.68)

張り切りすぎた彼女の服装は、周囲の人には滑稽にうつってしまったらしい。見る人ごとにくすんと笑われてしまう。でも本人は「自分の姿がほんの少しでも滑稽であろうなどとは夢にも思いませんでした」。生まれて初めての洋服姿が笑われていたことを知ったのは、後日のことだったそうだ。

そして宇野千代は問いかける。

 皆さん。では皆さんは、洋服を着るとか着ないとか、そんな詰らないことでは人に笑われないようにした方が好いとそうお思いになりますか。私もやはりそう思います。しかし、またこうも思って見るんです。着るもののことくらい、そんな詰らないことでは人に笑われても構わない。一向構わないから気にしないで、やっぱり好きな恰好をして、愉しいと思った方が好いと思うのですが、如何ですか。
宇野千代私のお化粧人生史』,1984,P.68)

さらに問いかけは続く。人に笑われるのは、そんなにいやなことだろうかと。

何か、とにかく今日から始めようと思うときには、何しろ何にも知らないのに今日から始めるのですから、よく知っている人から見たら、どこか変てこな、おかしなことがあるにきまっています。そうではありませんか。まアなにに限らず、そういうものですね。しかし、一ぺん人に笑われたら、あとは笑われた者の得だ。私はそんな風にも思います。(略)
宇野千代私のお化粧人生史』,1984,P.68)

なんて力強い宣言だろう! 宇野千代カッコイイ!
ああ、これを読めと言いたくて、この本はわたしのことを呼んだんだなあと思った。なににおいても、人目を気にし過ぎると一歩を踏み出せない。なにを着てよいのやら、まこと悩みのつきない三十路お年頃。自分を客観視することも忘れちゃいけないとは思うけど、基本的には、楽しければいいのだ。