丸谷才一の読書テクニック
先にも書いた丸谷才一の『思考のレッスン』は、どうすれば彼のような発想が生まれるのか、人が思いもつかないことをどうやって考え出すことができるのかということについて、彼自身にその秘密を紐解いてもらうという一冊だ。このなかに「僕の読書テクニック」という節がある。
まず「辞書を家の中のあちこちに置いて、いつでも手が伸ばせるようにする」、続いて「本はバラバラに破って読む」というコツが披露される。丸谷氏は本を読む時、バラバラにしてしまうのだそうだ。
丸谷 僕は本をフェティシズムの対象にするつもりはまったくない。大事なのはテクストそれ自体であって、本ではないと思っているんです。美本を愛蔵するといっちゃおうな趣味はまったくありません。だから、併記で本に書き込みするし、破る、一冊の本を読みやすいようにバラバラにする(笑)。あれは出版社の人にはとてもいやがられるんだなあ(笑)。
ーーちょっと心が痛みますね……。
丸谷 しかし、大事なのは、本という物体ではないんです。テクストを読んだとき、テクストと僕とのあいだで、ある種の幻想、観念が生じるわけでしょう。ロラン・バルトふうに言うと、テクストと読者とのあいだに電流が通じる。(後略)
(丸谷才一『思考のレッスン』1999,P.169)
必要な個所だけを取り出して読むという方法が有効なことはわかる。
わかるけれども、わたしの場合、モノとしての本にも愛着があるので、やはりバラバラに破って読むというのは真似できそうにない。
けれども、これは一度やってみよう、と思ったテクニックがあった。
丸谷氏は本を読むとき、索引から読み始めるのだそうだ。
丸谷 最初にあとがきを読むという人がいるけれど、僕の場合は、まず索引を読むことが多い。索引に目を通すと、一体この人は何に関心があってこの本を書いたのかというのがわかるんですね。中には、主題との関係で、当然あるはずの項目が索引にないこともあります。つまり、この本は何が扱ってあるかと同時に、何が扱ってないかということに気をつけて索引を一瞥しておくと、本文を読むときにとてもうまく行くんです。
(丸谷才一『思考のレッスン』1999,P.173-174)
本を読むとき、まず目次からチェックするということはやっていたけれど、索引から読み始めるということはしたことがなかった。
さらに、
索引というのは、読書をする上でとても大切なものです。もし、読んでいる本に索引がないなら、ぜひ自分でつくってみることをお勧めしたい。
本を読んでて、感心したり、大事だなと思ったら、線を引いたり書き込みをするでしょう。そのとき、見返しのところに、何ページにこんなことがあったというメモをしておくだけでいいんです。それが後で索引になってとても具合がいいんですね。
(丸谷才一『思考のレッスン』1999,P.172)
と、索引を作ることをすすめている。なるほど、これはいいかもしれない。今度やってみよう。
余談ながらちょっと笑ってしまったのは、丸谷氏はこういう読み方をするが故に、装丁家への希望があるのだそうだ。
だから、僕は装釘家にお願いしたい。本をつくるときには見返しを黒い色にするのは困る。あそこは索引のために、ぜひ薄い色にしてもらわなくちゃあ(笑)。
(丸谷才一『思考のレッスン』1999,P.173)
なるほどなあ。いろんな読まれ方があるものだ。
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