「サンデー毎日」に『家で病気を治した時代』の書評掲載

サンデー毎日」で池内紀さんが『家で病気を治した時代』*1の書評を書いてくださいました。ありがとうございます!

サンデーらいぶらりぃ:池内 紀・評『家で病気を治した時代』『しきたりの日本文化』

◆健康を人まかせにしていいものか

◇『家で病気を治した時代 昭和の家庭看護』小泉和子・編著(農文協/税込2、800円)◇『しきたりの日本文化』神崎宣武・著(角川文庫/税込580円)

 ある年代以上の人はよく覚えている。ヘントウセンが腫れると、何やらニガいのを喉にぬってもらった。回虫下しにセメンをのんだ。熱が出ると氷枕をした。仲間がさそいにきても遊びにいけない。氷枕のゴムの匂いがセツなかった。

『家で病気を治した時代』は何人もの女性たちが勉強会をつづけ、調査や研究をしてまとめあげた。メンバーにはきっと、ある痛切な記憶があったのだろう。病いやケガは突然やってくる。日ごろはクスんだ置き薬の箱が、なにやら魔法の入れ物のように見えた。祖母が指図をしたこともある。いつもとちがって威厳をもった声だった。

 国民皆保険が実現した昭和33(1958)年以前、昭和の半ばごろまでは、たいていの病気は家で治した。ここでは『主婦之友』『家の光』などの雑誌の記事、小説『細雪』に語られている病気と看護と薬の記述などを手がかりにしながら、合わせて同時代のデータを添えていく。

 とても的確な方法である。そこから病いに対する日本人の考え方、政治や行政の姿勢、家計やコマーシャリズムとのかかわりまでも見えてくる。家庭看護を個人のレベルに引きもどさず、暮らしの知恵だけにとどめない。しっかりした生活者の目で検証されている。「いくら技術が進歩し、モノが豊かになっても、身体を部分としか診ず、人間を心や生活を含めたまるごと全体の存在として捉えなくなったこと……」

 たいていの家に備えてあった衛生用品や常備薬が、カラー写真で収めてある。氷枕や脱腸帯やイチジク浣腸や吸入器……どれといわず特有のやさしさと風格をもっているのは、自分たちで診断して処方をきめたときの力強い暮らしの仲間であったからだ。

 医療システムの矛盾や偏りに対して声を上げる一方で、健康をそっくり人まかせにしていいものか。日々のからだともっとも親しくつき合っているのは、なんといっても当の自分と家族なのだ。
(後略)

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サンデー毎日 2008年4月13日号より>

http://mainichi.jp/enta/book/review/archive/news/2008/04/20080401org00m040040000c.html

*1:第3章を執筆しました。http://d.hatena.ne.jp/snow8/20080205